木下の見解(2)
小浜さん、丁寧な返答ありがとうございます。
まず(1)と(2)については、そのような傾向性があることについて基本的に同意します。それを認めた上で、私は日本の自然や偉人や文化について教育で教え込むことが必要だと主張します。
小浜さんが誰を念頭においているかは分かりませんが、仮にそういった教育が劇的な効果を生むと主張する人がいたら、たしかに言い過ぎだと思います。ですから、そういった教育の効果が長期的なものだとか、微弱だとかいう意見には一理あると思います。しかし、有益な効果が絶大だろうが微弱だろうが、ベクトルが有益な方へ向いているなら為すべきでしょう。過剰な愛国心教育が危険になるのは当然なので、適切な教え方を考えた上での話になりますが。
教育の効果の検証が困難だということにも同意しますが、それはどれだけの有効性があったか分かりにくいということでしかなく、その必要性の否定にはならないでしょう。
私のいう「愛国心」という言葉は、≪理性的な公共心≫というより、その前提となる「感情の共有」に関わっています。≪「愛国心」という感情的ニュァンスの濃厚な言葉≫という解釈で合っています。国民意識は、理性的な利益計算ではなく、感情の共有によって可能になると考えるからです。感情の共有がなければ、そもそも理性的な公共心が成り立たないでしょう。
小浜さんは、≪日本の外に出て≫行くことや、≪内外の危機が意識されるような異変があったとかいった経験的な契機≫について、≪有効≫だと述べておられます。しかし、私にはそれらは必ずしも有効だとは思えません。
前者については、それで日本好きになる人もいるでしょうが、外国かぶれになって日本批判し出す人だってたくさんいます。日本好きになって帰ってくる場合でも、それが安全だからとか、便利だからという理由ではあまり意味はないでしょう。後者については、外からの危機は他国の意思によるため日本人がどうこうできるものでもないですし、内からの危機については有効だからといってわざわざ作り出すのは馬鹿げています。
そもそも内外の危機において、自国を見捨てて他国へ脱出する例は人類史において山ほどあります。特に、安全や便利さが理由で自国を好む人は、危機の際には真っ先に安全で便利な他国へ逃げ出すでしょう。少なくとも、私には日本の自然や偉人や文化に対する敬意があります。その敬意に基づいた愛国心が少しはあります。その愛国心が私に無いなら、私は海外に行けば、そこにかぶれて日本批判するでしょうし、日本の危機には他国へ逃げ出すでしょう。
次に、≪自分たち≫という言葉が、≪日本国民全体≫を意味しているという点についてです。「愛国心について」には、「自分たち」という言葉が二回出てきます。まず一回目の≪自分たち≫について、小浜さんは、≪自分たちの明日の生活をどうするかや、いかに幸せな人生を送るかが大半の人たちの共通した関心事であり、経済がそこそこ豊かで安定している限り、国家そのものを意識する人がそもそも少ないからである≫と述べているではないですか。それなのに、二回目の≪自分たち≫という言葉が、≪日本国民全体≫を意味していると言われても、論理に飛躍があると感じられます。
そして、二回目の≪自分たち≫という言葉が≪日本国民全体≫を意味しているのを認めたとしても、なぜ≪自分たち≫を≪日本国民全体≫だと考えなければならないのか、どうして≪日本国民全体≫だと見なすことができるのかという問題が生まれます。小浜さんは、①と②を根拠にし、その難しさを述べていたのではなかったのではないでしょうか。
≪自分たち≫という言葉が、≪特定の個人・団体≫であることは簡単です。しかし、≪自分たち≫を≪日本国民全体≫だと見なしうるには、「何か」が必要だと私には思えます。
統治によって、常に国民全体の≪生活の安寧≫が実現できると想定することは幼稚です。統治者が善意に基づいていたとしても、危機は発生し、≪自分たちの生活の安寧≫を犠牲にしてでも国家を護らなくてはならないときがありえます。
具体的に言うなら、金持ちや権力者が、自分たちの不利益を享受しええる「何か」がなければ、国家は存続しえないということです。その「何か」に該当するものとして、自国の自然や偉人や文化に対する敬意を挙げることができます。伝統や歴史と言っても良いでしょう。それらが教育なしに成り立つと考えるのは、あまりに無理があると思います。
そういった「何か」が(潜在的にせよ顕在的にせよ)あるならば、外国体験や自国の内外の危機に国民意識は沸き立ちます。しかし、その「何か」が無いのなら、外国体験は外国かぶれを産み出し、危機には国外脱出する人民を産み出すだけでしょう。
また、少なくとも私には、≪ルソーの言う「一般意志」≫が『社会契約論』のそれなら、それは論理的に破綻していると考えています。
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