冷静に安倍政権の2年間を振り返る

安倍首相の評価出来る点「外交政策」「安全保障」「原発政策」

安倍政権の評価出来る点、それは
 一つは外交政策です。これは主として中国という近隣の脅威に対して、安倍総理が精力的にアジア諸国その他を回り、包囲網を形成した点が評価できます。日本はシーレーンを断たれたらおしまいですから、ぜひとも中国以外の国と友好関係を保っておく必要があります。

 また、覇権を後退させつつあるアメリカに、これまでのように依存しない自主的な外交ルートをしっかりと築き上げるという意味でもこれは大切なことです。ただしロシアとの関係では、ウクライナ問題が起きた時、それまでせっかくプーチン大統領との間に有望な関係が築けたのに、欧米勢力の空疎な「自由」理念に追随せざるを得なかったのは残念なことです。まだ対米従属から抜けきっていないということでしょう。次政権では、ロシアとの関係の重要性をよくにらんで、もっと多面的な外交を展開してほしいものです。

 もう一つ評価できるのは、安全保障政策です。特定秘密保護法案の国会通過、日本版NSCの設立、集団的自衛権容認の閣議決定など、これらは、いちいち詳しく解説しませんが、近年の国際環境の変化に伴う当然の措置です。左翼的世論のさんざんな感情的批判に遭いながら、よくここまで通したと思います。

 これらはいろいろと不十分な点もあり、また自民党の党是である憲法改正が当分望めないので、その代用品のようなものです。その点で憲法改正を本気で実行に移すつもりがないのではないかと疑われる面もあります。しかし私自身は、安倍総理の志のなかにそれが消えてしまったとはけっして思っていないので、今度の選挙に勝利して、もし長期政権が成立するなら、改正の可能性が増すとも考えられるわけです。

 さらに、電力自由化などのエネルギー政策全般には賛成できませんが、安全確認された原発から再稼働を進めるという政策は、現実的なものとして評価できます。先述のとおり、代替エネルギーの可能性には当分の間期待できず、また火力発電に過度に依存することは、日本のように資源を持たない国にとってエネルギー安全保障上、いろいろな意味でたいへん危険です。産油国や天然ガス産出国の国情の不安定、火力発電所の劣化、電力コストの問題等々。
 いっぽう、放射線の危険度はある線量以下については科学的に証明されておらず、現に福島事故から三年半経つのに、放射線による死者はおろか障害が確認された人は一人として確認されていません。おまけに反原発を叫ぶ人たちは、何ら現実的な代替案を提出することができていません。

 ついでに言っておくと、外国人があきれるほど原発の再稼働が遅れている一つの理由として、民主党政権時代に設立された原子力規制委員会の頑固さが挙げられます。この委員会のメンバーは、実際に原子力行政や原子力機構の仕事にかかわったことのないオタク学者が主導していて、彼らは科学的にも確証されない微細な論点にこだわり、日本のエネルギー問題が全体としていかに危険な綱渡り状態にあるかを見るという総合的な視野が欠落しているのです。この委員会の抵抗がなければ、再稼働はずっと早く進むのに、その点が残念でなりません。

 以上、第二次安倍政権の二年間を振り返ってきましたが、最後に、私がこの種の試みを通して言いたかったことを述べます。

 およそある政権を評価したり批判したりする時には、固定したイデオロギーでものを見ず、個々の政策単位で是々非々の判断を下すべきです。とかく政治的決定は、人々の感情を刺激しやすいため、政権全体をひとくくりにして、支持か反対かの白黒をつけるという態度を取りがちなものです。私の幼い頃は、国民世論は自民党支持か社会党支持かというように二色に分かれていたものです。しかしそういう時代はもう終わったのです。

 そういう意味では、ただ反権力イデオロギーを貫きたいから安倍政権に反対だとか、自分は保守派だからともかく安倍政権を支持するといった単純な態度は払拭した方がよい。いくら成立時の安倍政権を支持していたからといって、その後の政策がよろしくないのであれば遠慮なく批判すべきです。一強多弱状態がしばらく続きそうな現在の政局では、こういう態度がことに必要とされると思います。新政権誕生後も、このスタイルで行こうではありませんか。

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西部邁

小浜逸郎

小浜逸郎

投稿者プロフィール

1947年横浜市生まれ。批評家、国士舘大学客員教授。思想、哲学など幅広く批評活動を展開。著書に『新訳・歎異抄』(PHP研究所)『日本の七大思想家』(幻冬舎)他。ジャズが好きです。

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コメント

    • 所信行
    • 2015年 1月 21日

    安部政権の第三の矢失敗には大賛成です。是非危うい日本の将来の為、舌鋒厳しく今後もご活躍されん事を期待しております。私は三橋貴明のメルマガにも投稿致しましたが、貴君の原子力エネルギー政策論には若干の異論があります。現場の軽水炉技術は本質安全を担保していないので、現場の陸上設置型軽水炉はなるたけ早く代替することが必要と思います。また電力自由化の本質は安定供給義務と総括原価主義をセットにした日本の電力市場の制度疲労と考えております。従って総括原価主義に代わる代替案を示さない限り、岩盤規制改革の安部政権目玉商品として東京電力弱体化の現在強引に発送電分離は強行され、ハゲタカファンドの餌食となること必定と考えております。

  1. 所信行さま

    専門的なご指摘ありがとうございます。

    ですが、文面を読ませていただいた限りでは、私への異論とおっしゃっている部分がどこにあるのか、判然としません。

    おそらく貴兄のおっしゃる通り、軽水炉技術の難点は現時点で否めないのでしょう。しかし私は、現在の原発技術が完璧だと論じた覚えはありませんし、欠陥がある場合にはより高度な技術によって改良を重ねて克服していくべきで、その可能性を絶やさないためにも、原発を見限ってはいけないという考えを持っております。また実際、より安全な次世代原子炉を実用段階まで進める技術革新は着々と進みつつあると聞いています。

    次に私は、メガソーラー開発や固定価格買取制度や発送電分離や電力自由化が、安定供給を脅かし電力料金の高騰を招く危険があることを再三論じています。そこでここでは、「電力自由化の本質」という貴兄の言葉を「自由化の意義・理由」という意味に受け取ってお答えします。現行の安定供給と総括原価方式のセットが制度疲労を起こしているというご指摘ですが、どういう意味で制度疲労を起こしているのかを説明していただければ幸いです。それがだれの目にも明らかでない限り、代替案を示す必要はないと思います(現状でまずくないのですから)。

    安定供給が(安全確認がなされた原発を再稼働しさえすれば)現行の方式で脅かされているとは思えませんし、また、総括原価方式には、東電などの地域独占による情報の非対称性といったデメリットはあるものの、逆に、事業者が安定的な利益を期待できるので、中長期的な経営計画を立てやすく、また消費者も過大な料金の負担を負うことがないなどのメリットがあり、これらは公共性の高いサービスにとっては、不可欠の条件と思われます。さらに、企業経営者にとっても長期的な設備投資へのインセンティブが働くので、デフレ脱却にも有効な方式と考えられます。自由化論者の主張するような、この方式では経営効率が悪いという論理は、私企業の理屈をそのまま公共サービスに当てはめた論理で、高度な公共性が要求される電気事業に適用すべきではありません。この論理が、まさしく竹中一派に代表される「構造改革・規制緩和」路線から出ていることにお気づきでしょうか。

    「アベノミクス第三の矢の失敗」説に賛同してくださり、しかも発送電分離やハゲタカファンドの危険性をよく理解してくださっている貴兄が、同時にややもすれば自由化論の防衛とも取れる論理を展開なさっていることにいぶかしさをおぼえます。これらの危険性に対しては、「代替案を出せ」という要求に屈するのではなく、あくまで現行の方式のほうがはるかにマシなのだという論理で対抗すべきなのではないかと愚考いたします。

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