冷静に安倍政権の2年間を振り返る

TPP参加は、国内産業の命運をアメリカの富裕層に売り渡す行為

 次に今年2月のTPP交渉参加ですが、これもこの条約の本質を見誤った失政です。現在、参加各国のさまざまな思惑が絡み合って交渉が停滞していることは不幸中の幸いというべきです。

 この条約は、アメリカ発のグローバリズムを環太平洋諸国に強引に広げていこうとするもので、これが成立していい目を見るのは、アメリカの巨大企業と、これと結託しているアメリカ政府だけです。その目論見は、強大な国力を背景に、関税のみならず、アメリカの経済進出にとって都合の悪い各国の諸制度を撤廃させようとするところにあります。そもそも関税障壁(barrier)とか非関税障壁という言葉がそれを何よりも雄弁に物語っているではありませんか。

 ここでは詳しく触れる余裕がありませんが、コメや牛肉や乳製品など農産物にかかわる関税の撤廃などよりも、混合診療の開放、新薬にかかわる規制撤廃、ISD条項、知的財産権の規制緩和など、いわゆる非関税障壁の撤廃のほうがはるかに重要なのです。これらが適用されると、国家主権が外国の大資本に脅かされるだけではなく、その国の伝統と慣習に基づいた良き制度文化が破滅的な打撃をこうむる可能性が大きいのです。

 安倍政権は、中国の脅威に備えるためにアメリカとの同盟関係を強化するという安全保障的な効果を狙って、このTPP条約承認をアメリカにプレゼントしようと考えているようですが、それは甘い幻想にすぎません。TPPを承認したからといってその見返りにアメリカが日本の安全保障に今以上の力を貸してくれるなどということはあり得ないでしょう。

外国人労働者よりも日本人の雇用を

 次に新成長戦略の一つである外国人労働者受け入れ拡大策ですが、これまたとんでもない政策です。表面上は「高度人材」を育てると謳っていますが、実際には、少子化による労働者不足対策の一環として「技能研修」という名のもとに低コスト労働者を大量に受け入れようとするもので、その対象は主として中国人です。技能研修といっても、日本語で仕事ができるようになるまでには相当の時間とコストがかかりますし、できるようになった時には、雇った企業が帰国を許さないでしょう。つまりは実質的な移民政策です。

 移民政策はすでにドイツやスウェーデンなどで実験済みで、その難点がいくつも露呈しています。ヨーロッパ諸国では移民政策に反対する勢力が増大しており、政府も見直しを検討しつつあります。
 この政策の難点は、第一に賃金競争がおこって、日本人に貧困層が増えること、第二に治安の維持が難しくなること、第三に文化摩擦が避けられなくなること、第四に高度な技術を支えてきた日本的な相互扶助精神が枯渇して、スキルの伝達を可能にする統合秩序が破られる危険があること、そして最後に、膨大な人口を抱えた中国が、日本の受け入れに味をしめて次から次へと人を送り込んできた場合に、地方自治や国家主権が脅かされかねないことです。

 日本にはいま潜在的な労働力が有り余っています。それは高齢者であり、ニート、引きこもりの若者です。外国人を受け入れる前に、この人たちをいかに活用するかを考えるのが先決ではないでしょうか。また技術立国としての利点を大いに生かして、生産性を向上させることも目指すべきなのです。

エネルギー政策は迷走

 次に電力自由化政策や再生可能エネルギーの固定価格買取制度ですが、これまた、他の先進国で実験済みで、結果は失敗です。

 電力自由化はやはり企業間競争がおこり、そのためインフラ中のインフラである電力サービスの劣化を招きます。また競争による勝者が寡占状態を引き起こし、電気料金はかえって高騰する危険が大です。そうなると確実に産業の縮小を招き、経済は停滞するでしょう。さらに発送電分離が進むと、中央管理体制が機能せずに広域にわたって停電が頻発する可能性が増大し、その場合には修理に膨大な時間がかかるでしょう。四日市市でわずか数秒の停電が起きた時、一大企業の損害額は何億円にも上ったそうです。

 固定価格買取制度は、こんなうまいビジネスチャンスはないので、怪しげな申請が殺到し、仮想の供給量が過大になったため、九州電力はじめ多くの電力会社が、安定供給の確保が維持できないとして買取を中断しました。メガソーラーは供給が不安定なうえに、広大な敷地と地域特性が要求されるため、供給地域と需要地域との間の距離を埋めるための送電線の新設がたいへんです。再生可能エネルギー(現在わずか2%未満)は、まだまだというべきでしょう。経産省はすでに見直しに入っています。

 ダメな政策ばかりを並べてきましたが、もちろん評価できる政策もあります。

→ 次ページ「安倍首相の評価出来る点「外交政策」「安全保障」「原発政策」」を読む

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西部邁

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コメント

    • 所信行
    • 2015年 1月 21日

    安部政権の第三の矢失敗には大賛成です。是非危うい日本の将来の為、舌鋒厳しく今後もご活躍されん事を期待しております。私は三橋貴明のメルマガにも投稿致しましたが、貴君の原子力エネルギー政策論には若干の異論があります。現場の軽水炉技術は本質安全を担保していないので、現場の陸上設置型軽水炉はなるたけ早く代替することが必要と思います。また電力自由化の本質は安定供給義務と総括原価主義をセットにした日本の電力市場の制度疲労と考えております。従って総括原価主義に代わる代替案を示さない限り、岩盤規制改革の安部政権目玉商品として東京電力弱体化の現在強引に発送電分離は強行され、ハゲタカファンドの餌食となること必定と考えております。

  1. 所信行さま

    専門的なご指摘ありがとうございます。

    ですが、文面を読ませていただいた限りでは、私への異論とおっしゃっている部分がどこにあるのか、判然としません。

    おそらく貴兄のおっしゃる通り、軽水炉技術の難点は現時点で否めないのでしょう。しかし私は、現在の原発技術が完璧だと論じた覚えはありませんし、欠陥がある場合にはより高度な技術によって改良を重ねて克服していくべきで、その可能性を絶やさないためにも、原発を見限ってはいけないという考えを持っております。また実際、より安全な次世代原子炉を実用段階まで進める技術革新は着々と進みつつあると聞いています。

    次に私は、メガソーラー開発や固定価格買取制度や発送電分離や電力自由化が、安定供給を脅かし電力料金の高騰を招く危険があることを再三論じています。そこでここでは、「電力自由化の本質」という貴兄の言葉を「自由化の意義・理由」という意味に受け取ってお答えします。現行の安定供給と総括原価方式のセットが制度疲労を起こしているというご指摘ですが、どういう意味で制度疲労を起こしているのかを説明していただければ幸いです。それがだれの目にも明らかでない限り、代替案を示す必要はないと思います(現状でまずくないのですから)。

    安定供給が(安全確認がなされた原発を再稼働しさえすれば)現行の方式で脅かされているとは思えませんし、また、総括原価方式には、東電などの地域独占による情報の非対称性といったデメリットはあるものの、逆に、事業者が安定的な利益を期待できるので、中長期的な経営計画を立てやすく、また消費者も過大な料金の負担を負うことがないなどのメリットがあり、これらは公共性の高いサービスにとっては、不可欠の条件と思われます。さらに、企業経営者にとっても長期的な設備投資へのインセンティブが働くので、デフレ脱却にも有効な方式と考えられます。自由化論者の主張するような、この方式では経営効率が悪いという論理は、私企業の理屈をそのまま公共サービスに当てはめた論理で、高度な公共性が要求される電気事業に適用すべきではありません。この論理が、まさしく竹中一派に代表される「構造改革・規制緩和」路線から出ていることにお気づきでしょうか。

    「アベノミクス第三の矢の失敗」説に賛同してくださり、しかも発送電分離やハゲタカファンドの危険性をよく理解してくださっている貴兄が、同時にややもすれば自由化論の防衛とも取れる論理を展開なさっていることにいぶかしさをおぼえます。これらの危険性に対しては、「代替案を出せ」という要求に屈するのではなく、あくまで現行の方式のほうがはるかにマシなのだという論理で対抗すべきなのではないかと愚考いたします。

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