【PR】オトナのマンスリーマガジン「月刊WiLL」は年間購読がお得!
朝日は緩やかに消滅
このような状況がありながら社内改革ができないのは、出世目当てのごますり社員ばかりが社内で大きな顔をして、まともな社員は来ないし、来ても逃げてしまうからだ。
いまや新聞は〝情報のブローカー〟でしかなく、ただ公表される情報を新聞に書くだけ。新聞が自らを「媒体」と呼ぶのも、「単に情報を右から左へ流すだけ」だからであり、これでは「自ら発信する」社風は育たない。今後はブローカーではなくクリエーターとなり、誰もが気づかないような情報、新しい兆候を誰よりも早くキャッチし、価値を作り出し、指導性を発揮して報じなければ、存在意義がなくなる。
地方の人に聞くと、新聞社の人は高給取りだから危機感がないんですよ、と教えてくれる。身近な存在だから正体がよく見えるらしい。特に社会部は世の中を上下両方からくまなく眺める力がなければならないが、そこを直す気はない ので、すでに毎日新聞社がそうなっているが、新聞で儲けられなくなると土地や自社ビル管理の不動産業になり下がる。
こんなことでは当然、資本そのものにも揺らぎが出てくる。朝日新聞社の大株主だった村山美知子氏が朝日新聞社の株をテレビ朝日に売却したのは〇八年、朝日新聞社社員持株会への譲渡は〇九年だった。 朝日新聞社持株会は「これでうるさい株主がいなくなる」と大喜びで高く買い取ったが、「権力を取り上げたい」というだけで喜んだのは甘かった。 朝日はアメリカから吹いてきていた「株主資本主義」の風を感じていなかったのだろう。この風のなかでは株主が最も偉い。
従業員を奴隷にしてでも株価を下げるなというのが風潮で、結局、朝日はテレビ朝日などの新株主が乗り込んで来て威張るという風潮に見舞われただけだった。
ロマノフ王朝崩壊時、真っ先に逃げ出したのは王様の側近だったのだが、甘い汁を吸っていた人間ほど、機を見るに敏でもあるということだ。
「驕る平家」と朝日新聞
こういう事態に至っては、朝日新聞は資産の切り売りをしながら緩やかに消滅に向かうしかない。これは私が朝日を嫌って言っているのではなく、こういう経路を辿った会社をいくつも知っているからだ(たとえば長銀)。
切り売りの過程で社の精神はすり減っていく。やがて記者も逃げ出す。朝日新聞が二〇一〇年に実施した早期退職制度は、破格の条件だったとはいえ、予想以上に多くの人が飛びついた。残っている人も「自分が退職金をもらって辞めるまで会社が持てばいい」と考えているのだろう。
巨大・強大な組織の没落の前兆として必ず起こることだが、中心部の人のほうが売りぬけをする、いわばインサイダー取引である。
朝日新聞は『平家物語』のストーリーを辿っている。朝日の記者たちは「そんなものはよく知っている」というかもしれないが、しっかり味わって、わが事として読み直すことをお勧めしたい。『週刊新潮』はそれが分かっていて、朝日特集のタイトルに「おごる朝日は久しからず」とつけた。新聞社の黄金期は四十年続いた。が、ここ十年ほどは、まさに朝日新聞が時々刻々と平家になりつつあった。そのことに気づいていた人もいるはずだが、朝日新聞はそのことに気づいていなかったのである。
朝日は九月十一日、社長が記者会見を開き、福島原発の吉田調書に関する報道について謝罪、慰安婦報道についても一部お詫びを述べた。だが、いま謝ったところで、朝日離れは収まらないだろう。ここまで述べたとおり、来るべきものが来ただけで、謝罪によって朝日が良くなるというものではない 。
反省し、謝罪したからと言って、朝日はこのままではもはや新しい記事は書けないだろう。自分で取材し、自分で考えて記事を書くことができず、特ダネ捜しよりも「特オチ」を怖れているようではお客がいなくなる。
朝日の新入社員に東大卒がいなくなったという話題もあったが、学歴云々ではなく、「どんな就職先にでも行ける人材が朝日を選ばなくなった」ことを重く受け止めるべきだろう。
朝日新聞の今年の内定者の会で、内定者の大学生から、慰安婦報道について「検証記事などで慰安婦問題が話題になっていますが、それについてどうお考えですか?」との質問が飛んだところ、その場は凍りついたという。その場で役員は「正しいことをやっている」と言ったらしいが、このような認識では先はない。また、学生のほうもこれから記者になる人間ならば、「私ならこうします」という答えを用意していないようでは情けない。
朝日に内定が決まっている新入社員はいまさらやめられないだろうが、朝日の上層部は後輩の道を狭めることだけは絶対にやってはならない。朝日の人々には、上からの勤務評定を気にするのではなく、下から感謝されることのほうが大事だということを肝に銘じてもらいたい。
世間の声に耳を傾け、報道の使命を自覚しない限り、朝日新聞の再興はない。
この記事は月刊WiLL 2014年11月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。