恋をしない若者を論じ、少子化問題に及ぶ

政府の少子化対策のどこがちぐはぐなのか。

 これによりますと、緊急対策の柱を「子育て支援」「働き方改革」「結婚・妊娠・出産支援」の「3本の矢」で推進するとあり(どこかで聞いたようなセリフですね)、そのより詳しい内容を見ると、「待機児童解消加速プラン」とか「多子世帯への支援」とか「企業による『女性登用』の促進」とか「企業における女性のキャリア形成のためのロールモデルの普及」などとなっています。
 これは何ら、先に述べたような、若者の結婚難解消を目指したものではなく、一つは、すでに子どものいる家庭へ向けての支援対策であり、もう一つは、既婚女性の労働力をいかに確保するかという労働対策です。
 前者は、経済的理由で結婚できない人に比べれば比較的金銭的な余裕のある人への優遇策です。ことに現在、多子世帯(3人以上)というのは、かなり裕福な家庭に限られます。
 また後者は、女性の社会進出やキャリアウーマンの増加を無条件でよいことと考えるフェミニズム思想と、できるだけ安い賃金で労働力需要を満たそうとする経営者スピリットとが結託したところに生まれた発想です。これは、ゆとりと愛情を持って静かな家庭環境のなかで子どもを産み育てたいと願う女性の希望を少しも満たすものではありません。
 要するに、こんな対策案では、未婚者の結婚へのインセンティブがかき立てられるはずがないのです。
 ちなみに、日本には欧米諸国と比べて婚外子を非常に嫌う伝統があり、子どもを持つなら法的にちゃんと結婚してからと考える人がほとんどです。ですから、少子化を問題にするなら、まず未婚者をその気にさせるような対策を打つのでなくてはなりません。これについては最後にもう一度述べます。
 現在の政府の少子化対策についてあと一言。
 この対策にかかわる26年度の概算要求を見ますと、その実態がいかに真の少子化解決とかけ離れたものであるかが歴然とします。
26年度少子化対策関係予算概算要求のポイント(内閣府)

 これによりますと、少子化対策に充てられるとする費用は総額約3兆円ですが、その内訳はといえば、児童手当1.4兆円、特別支援教育就学奨励費0.9兆円、待機児童解消等に0,5兆円と、これだけで2.8兆円に達します。これらが少子化の解消に少しも貢献しないことは、理屈の上からも、これまでの経験からも明らかです。すでに育っている子どもを対象にお金をばらまいても、保育所の数や設備を充実させても、結婚していない人が結婚しようなどと決意するわけがありません。政府はこうした巨額のお金を少子化解消のためと称して毎年費やしてきたのですが、論より証拠、少子化にはいっこうに歯止めがかかっていません。

 最後に、ではどうすればよいのか、政府にできることは何かという話になるのですが、先に述べたように、少子化の原因は、思い切って単純化すれば次の2点にまとめられます。

①大人になれば誰でも結婚するものという「結婚規範」が解体して個人化が進み、若い男女のミスマッチが多くなった。

②結婚したくても、経済的に苦しくてできない。

 第一の原因は、先進国ではかなり普遍的で、豊かな文明社会の宿命のようなものです。ですからこれを克服することはかなり難しい。国や地方自治体は、せめて民間の結婚相談所などのノウハウを真剣に学び、男女の楽しい出会いの機会を率先して作り出すような試みに税金を使うべきでしょう(お役所風のダサいイベントなどはダメ)。結婚したいと思っている若者は現在でも9割を超えているのです。
 第二の原因に対する対策は明瞭です。日本経済を一刻も早くデフレ不況から脱却させ、雇用の安定と所得の増大を図り、格差を縮小して分厚い中間層を再形成させるのです。安倍政権はそのことにエネルギーを集中させるべきで、その方法も明らかなのに、それに逆行するさらなる消費増税などに踏み込もうとしています。これでは、当分、少子化は解消の糸口さえ見つかりますまい。

 団塊ジジイが息子や娘世代の将来を心配して、「大きなお世話」を記してみました。

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西部邁

小浜逸郎

小浜逸郎

投稿者プロフィール

1947年横浜市生まれ。批評家、国士舘大学客員教授。思想、哲学など幅広く批評活動を展開。著書に『新訳・歎異抄』(PHP研究所)『日本の七大思想家』(幻冬舎)他。ジャズが好きです。

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コメント

    • ともえ
    • 2014年 11月 20日

    恋愛しない若者が増加している要因は男女共同参画政策かもしれません。
    日本の男女の恋愛をおかしくしているのは男女共同参画です。

    女性は男らしい男に恋しますが、男女共同参画政策では「男らしさ・女らしさの縛りをなくそう」という部分があります。男は女にモテたいなら男らしくしないとダメなのです。男の場合は腋毛やすね毛を剃ることは男らしさに反します。

    また女性は自分をぴっぱる男に恋するのに男女共同参画の影響で、女性をひっぱる男が少なくなっている。
    対等な立場とひっぱる立場は違います。
    女は夫と対等な立場よりも夫に恋するほうが幸せだと思います。
    こういった法には、特に女性に優しい男が影響されやすい。

    要するに日本をおかしくしていたのは、恋愛を考慮しない男女共同参画が原因です。

    また、これは外国の男女共同参画ですが、ノルウェーの調査論文では、家事を分担する夫婦は、妻が主に家事を担当する夫婦と比べて離婚率が高く、家事を平等に行う夫婦の離婚率は、妻が主に家事をする夫婦より約50%高かったと発表されています。

    • 賢人会議
    • 2016年 4月 26日

    男尊女卑制度になれば元通りになるんじゃない?
    どうせ、女性からクレームの嵐になるけど

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