いま裁判員制度の是非を問う

裁判員制度設計の立役者、四宮啓氏のことばを読み解く

 前者に属する弁護士で、裁判員制度設計の立役者であった四宮啓(しのみや・さとる)氏は、今回の最高裁判決について、次のように述べています。

「(今回の最高裁判決は――引用者注)量刑傾向から外れる場合には理由を説明するよう求めており、いわば国民に説明責任を負わせている。

「最高裁が言い渡した刑は結局求刑の範囲内に収まっており、量刑判断ではプロの意見が優先されるという誤ったメッセージを国民に伝えかねない。制度(裁判員制度――引用者注)施行から5年で縮まった国民と裁判所の距離を再び広げることにならないか心配だ。」

(記者の質問)――裁判員裁判では高裁が1審の死刑判決を破棄して無期懲役とした例もあり、最高裁の判断が注目されている

 「生命を奪う死刑は他の刑罰とは異質で量刑判断も別の問題として考えるべきだ。憲法が考える最高の価値は個人の尊厳であり、死刑については手続きのどの段階でも誰の判断であっても死刑判決の破棄が認められるべきだ

【金曜討論】〈裁判員裁判の量刑〉 原田国男氏「公平でない裁判は是正を」、四宮啓氏「自由な意見表明を阻害も」 – MSN産経ニュース

 すべておかしなことを言っています。
 第一。そもそも国民に説明責任を求めざるを得なくさせるような制度を考えたのはだれですか。裁判員を務めることによって、無関係な個人の運命を左右するような立場に国民を追いやっておきながら、説明責任から免れさせるというのは、理屈が通りませんね。それに、実際には判決理由を起草するのは裁判官であって、裁判員ではありません。判決が決まったら、裁判員は説明義務などから当然解放されるはずです。
 第二。プロの意見が優先されるのは、少しも「誤ったメッセージ」ではなく、当然のことです。現に評決でも、単純多数決ではなく、多数のなかに職業裁判官が含まれていなければならないという歯止めが入っているではありませんか。
 もともと裁判への一般市民の参加を“絶対善”と考えているからこういう発言が出てくるのでしょうが、残念ながら一般市民のなかには「愚民」もたくさんいるのです。「国民と裁判所の距離」はあって当然で、他者が個人の運命を左右する空間は、限られた専門的な叡智が結晶する場でなければなりません。
 第三。他の量刑では裁判員裁判の一審判決を過大に尊重しておいて、死刑だけをなぜ特別視するのですか。最高裁が一審の死刑判決を破棄して減刑したら、それは無条件に正しいことになるのですか。
 これは四宮氏が死刑制度反対原理主義者だからこそ出てくるたいへん手前勝手な発言です。私は死刑存置論者ですが、それぞれの法廷で審理を尽くし担当裁判官の良心に基いて死刑判決が出たのならそれを尊重すべきだし、また同じ理由によって上級審で減刑されたのなら、それをも尊重すべきだと思います。

 以上、裁判員制度の欠陥があらわとなった最近の事実について書きました。他にもこの制度の欠陥はあるのですが、それはまた別の機会に。
 私としては、この制度が一刻も早く廃止されることを望みます。

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西部邁

小浜逸郎

小浜逸郎

投稿者プロフィール

1947年横浜市生まれ。批評家、国士舘大学客員教授。思想、哲学など幅広く批評活動を展開。著書に『新訳・歎異抄』(PHP研究所)『日本の七大思想家』(幻冬舎)他。ジャズが好きです。

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コメント

    • 天道公平
    • 2014年 10月 02日

    裁判員裁判の制度の不備については、以前から腹立たしい思いをしている。裁判の審議の過程で、その不当性について、裁判員が、訴訟で争っているのではないか。日本の司法制度の退廃ではないのか。自己の責務と、職責の重さを、意に反して、無辜の市民に振るとは、全くふざけた話だ。かつて見た「馬鹿の民主党」の首班の、恥知らずの言動を連想させる。「職業選択の自由」があるのに、殺人現場の写真を、何故見るように強要され、見ないことで指弾されなくてはならないか。筆者のいうように、人民裁判と公開処刑に続くような愚かで、恥ずべき制度だと思う。

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