フランスで「反アマゾン法」が可決

大河内山荘

オンライン書店が値引きした書籍を無料配送することを禁じる法案が、6月26日、フランス上院で可決された。
「反アマゾン法」無料配送を禁止する法案、フランスで可決

日本でもアマゾン社が提供を決めた学生向け値引きサービスへの抗議の声が出版社協議会から上がっている。
STOP!! Amazon Student プログラム!!: 日本出版者協議会

ひっそりと息の根を止められている日本の書店

抗議の声の主が、仏では小規模書店、日本では出版社となっている。日本の小規模な書店は、なぜ声を挙げないのか。これは日仏間の書籍販売に絡む制度の違いに起因している。仏では書籍の値引きを5%まで許容している為、これ以上のサービス(今回は無料で家に本が届くこと)をオンライン書店が提供することは、小規模書店にとっては死活問題と認識された。一方日本では、書籍の値引き販売は原則許されておらず、かつ書店は出版社に販売を委託されているという形式になっており、仕入リスクを負わずにすむ。この為、日本ではまず出版社が我慢の限界とばかりに音を上げたのだった。なお、以上の商慣習に加え、取次と呼ばれる書籍卸が流通網を一括して担うことが、日本で少量多品種の書籍が流通でき、ひいては小規模書店が店を構えることのみで経営ができた素地となってきたことも付言しておく。

 では、日本の書店は未だ泰平の世を謳歌しているかというと、そんなことはない。アマゾン日本参入前年の1999年に比べ、2014年5月現在で、約4割の書店が店を畳んだという統計データがある(書店数の推移 1999年~2014年)。さらに、アマゾンが提供するような割引サービスは、他のオンライン書店は随分前から提供している(例:hontoの10%割引等)。オンラインによって書籍流通が活性化する裏で、横丁の本屋はひっそりと息の根を止められ続けているのである。

 最後に、アマゾンに代表される通信販売という商売に関わる業界について、いくつか苦言を呈したい。送料無料という謳い文句が顧客の購買意欲を掻き立てているが、顧客に書籍が屆くのは、全国的に整備された道路網やその上を走るトラックという交通インフラがあってこそである。運送業者もこの指摘に溜飲を下げるだけではいけない。これまでの経験から編み出された運賃タリフを無視した料金過当競争をやってきたツケ払いは、予想以上に大きく、激しいものになると心せねばならない。アマゾンがヘリコプターを飛ばすという明後日の話(アマゾン、30分以下で届ける小型無人8翼ヘリPrime Air を公開。実用化は2015年以降)を、荒唐無稽な話だと一笑に付すなかれ。この検討の真意を「アマゾンが顧客へ直接届ける」と取れば、「アマゾン運輸.com」が出来るのは時間の問題である。その時に、自分たちがひっそりと息を引取った小規模書店の二の舞にならない為にはどうしたらよいか、今から真剣に検討することだ。また、近頃は大手食品卸の仲介により酒類販売(アマゾンが獲得した“ゾンビ免許”)に乗り出したらしいが、法の目を掻い潜ったり、納税回避等により競争優位を保とうとする姿勢は、創意工夫ではなくちょろまかしである。これらのことは、遠くない将来に別途論じさせて頂く。

 長くなってしまったが、最後の最後にもう一言。アマゾンよ、書店での蠱惑(こわく)に満ちた、便意を催し脂汗を滲ませたあの体験を返せ。

西部邁

小菅 拘一

投稿者プロフィール

会社員、読書家。昭和57(1982)年生まれ。東京都葛飾区在住。戦後日本の陥った状況を「物語の喪失」と捉え、その取戻しに資する書物の探索と読書とその箚記付けに勤しんでいる。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

    • unk
    • 2014年 6月 29日

    >>アマゾンよ、書店での蠱惑(こわく)に満ちた、便意を催し脂汗を滲ませたあの体験を返せ。

    ↑すげーわかります。(笑)

    • unk
    • 2014年 7月 28日

    もはやアマゾンの勢いは止められないな。
    売り手(出版社)と買い手(消費者)の利便性を否定する事はできない。
    書店も書店としての企業努力が必要だし、産業政策と称して国が法律をつくるのは
    ある意味、市場介入と捉えることもできるし、あまりにも新自由主義的だ。

    • 小菅 拘一
    • 2014年 8月 18日

    unk様

    二件のコメントを頂戴し、誠に有難うございます。
    あの現象(正式には青木まりこ現象と呼称するようです)が私たちの生理体験から漸減するということは残念な事であります。

    青マリ現象はさておいて、通信販売の興隆が我々の消費行動、著者、出版社、書店等の供給行動にどのような影響を与えるのかについては今後も注視して考えていきたいと思っております。

    一方で、法の目を掻い潜ることや、ちょろまかしをすることはまさにunk様の御意見にもあるような新自由主義的な行動であって、これをも通信販売の興隆の致し方ない結果であると捉えることには、少々違和感があります。こちらについては、昨今通信販売に限らずみられる事象を絡めて検討したいと考えております。

    今後とも色々とご教示頂ければと存じます。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 1344

    2014-12-24

    『永遠のゼロ』を私はこう見る

     当サイトに、藤井聡氏のエッセイ「永遠にゼロ?」(2014年9月9日 三橋経済新聞掲載)に対する木下…

おすすめ記事

  1. 3096
     アメリカの覇権後退とともに、国際社会はいま多極化し、互いが互いを牽制し、あるいはにらみ合うやくざの…
  2. 1559
    SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…
  3. 1902
    ※この記事は月刊WiLL 2015年6月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 女性が…
  4. 1101
     経済政策を理解するためには、その土台である経済理論を知る必要があります。需要重視の経済学であるケイ…
  5. 1719
    ※この記事は月刊WiLL 2015年4月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 「発信…
WordPressテーマ「AMORE (tcd028)」

WordPressテーマ「INNOVATE HACK (tcd025)」

LogoMarche

ButtonMarche

TCDテーマ一覧

イケてるシゴト!?

話題をチェック!

  1. 3152
    「日本死ね」騒動に対して、言いたいことは色々あるのですが、まぁこれだけは言わなきゃならないだろうとい…
  2. 2918
    多様性(ダイバーシティ)というのが、大学教育を語る上で重要なキーワードになりつつあります。 「…
  3. 2691
     11月13日に起きたパリ同時多発テロに関するマスコミの論調は、どれも痒い所に手が届かない印象があり…

ページ上部へ戻る