『夢幻典』[玖式] 蛍光論

 微笑を浮かべよう。
 微笑む価値があるのだから。
 あるのだから、微笑みを浮かべよう。

 微笑を浮かべよう。
 微笑む価値がないのだから。
 ないのだから、あえて微笑みを浮かべよう。
 ないのだとしたら、あえて微笑みを浮かべよう。

 極限において、
 たとえば簡単な言葉を唱えよう。
 その言葉には意味がある。
 意味があるということにしたのだから。
 やりきれない生への自覚は、飛躍を伴う言葉を必要とする。
 それが嘘だとして、それを悪だと言うことはできない。
 できてはならないのでなければならない。
 だから、それゆえに、その糾弾は可能でもあるだろう。
 そうして、思想は複数性を要請することになるだろう。

 そうして、複数の思想の関係性が問われることになるだろう。
 そうして、状況と状態が問われる。
 この世界が問われる。
 この世界の状況と状態が問われる。

 修身斉家治国平天下。
 それぞれは単純にはつながらない。
 それぞれは、互いに関係し、あるいは反発し、世の中を廻している。
 それらの共同体において、無は、
 その共同体にとって価値を持つ無として、その意味を持つことになるだろう。

 そこに飛躍があり、
 飛躍が思想体系を形作る。
 その思想をもって、我と汝は、我々として生きることになるだろう。

 そこで、生きることそのものが問われるだろう。
 互いに生きることそのものが問われるだろう。
 例えば、怨みの連鎖を断ち切ることは、程度により要請されるであろう。
 例えば、共同体に反して、すべてを捨て去る方法が必要とされるであろう。
 その先で、思想が行き着かざるを得ない何かがあるのだろう。

 潔さ。
 命の選択が為される。
 生を愛するがゆえに、死を恐れない。

 美しさがある。
 それ故に去りがたく、それ故に去るに足るのだ。

 他に何がいるのだろうか。
 そのような言葉が呟かれる。

 その何かとは、何か?
 それはありふれたもの。
 それでも、かけがえのないもの。

 この世界において、
 かけがえのないもの。
 そう、見なしえるもの。

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西部邁

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