アップルvs島野さん裁判に感じた日本社会の活力の衰え

日本政府の対応と島野さんの対応に垣間見える日本の活力の衰え

裁判はこれから本格化しますので行方は引続き見守りたいですし、島野さんには不当な要求には屈しないで欲しいのですが、先ほど引用した記事の末尾に少し引っ掛かる記載がありましたので更に引用します。

訴状などによると、島野は平成24年、電源アダプタのピンを納入していたアップルから増産要求を受け、設備投資を実施したが、直後に取引を急減させられた。取引回復を求めたが、納入価格を半額以下にするよう要求され、さらに「納入済みの在庫部品にも値下げ分を適用する。約159万ドル(約1億6千万円=当時)のリベートを支払え」と求められた。島野はいずれの要求にも従ったが、その後、「突然の取引急減や値下げ要求、リベート要求は不当だ」として提訴していた。

太字強調部分を読んで、あんた一旦従ったんかい、と心の声がツッコんでいました。国際関係において言動が一貫しないことがもたらす事態は、先日の慰安婦問題に対する日本国政府の対応とその後の各国でどのような言論が巻き起こったかを見れば明らかな通りです。この辺りの顛末は本サイトの小浜逸郎氏の記事(「日韓合意」は安倍政権の致命的な失敗)、高木克俊氏の記事(慰安婦問題日韓合意海外メディアは如何に報道しているか?)で確認することができますが、「日韓基本条約で請求権は完全に解決済み」と言っていた事項について、今更「日本政府は責任を痛感している」などとコメントしたことで生じたのは、今後も旧連合国を中心とした国々から新たな責任追及を受け続けること、それにより自国民がそのことに対して今後も疾しさを覚え続けなければならないのではないかと暗澹たる気持ちにさせられたということでした。

 島野さんの事例では相手方がアメリカの名実ともに当代一の革新的企業であるということから、私を含む反米保守気質の皆さまからお門違いのエールを送られる事態になっています。冒頭で触れた「一矢報いた」などという修飾語はその心情のあらわれだと言えましょう。しかし、実態は納入数急減、納入済みの部品の値下げ(しかもその要求金額は自社の資本金をゆうに上回るほどの規模)などという非常識極まりない要求を、一旦受け容れざるを得ないほどに追い詰められた東京下町の中小企業が乾坤一擲(けんこんいってき)の訴えを起こしており、そして出来うることならばアップルとは取引を継続したいと考えているという状況なのです。このことの背景として私は日本社会の活力の衰えを感じるのです。

経済活力の衰えには「大胆な財政出動」と「機動的な金融緩和」を、そして企業家には血の気を

 本サイトによくお越しになる方に対して、経済活力の衰えに対する処方箋を今更薀蓄するようなKYでは私はありません。少し述べさせて頂くとしたら、旧アベノミクスの3本の矢は「大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略」の順序で語られておりましたが、本当は「大胆な財政出動、機動的な金融緩和」の2本をきっちりやれば良いのです。しかし実態は金融緩和を実に「大胆」に継続し、ターゲットとした物価上昇が起こらなかったのは周知の通りです。財政政策は初年度10兆円の補正予算が組まれた後は実に「機動的」に規模が縮小されてしまったのです。その結果として、経済活力の指標であるGDPがマイナス成長となっていることは周知の通りです。島野さんを含めた中小企業が元気になる為の呼び水となる大胆な財政政策を日本政府に打ち出して頂くことで、萎れている日本国内に多数いる企業家の血の気は戻ってくると私は考えています。私の活力も衰えてきましたのでこれで最後にしますが、血気が戻った企業家にしてみれば、島野さんが作った部品やその他中小企業が作った部品の活用用途など、いくらでも思いつくのではないか。私はその点に関しては楽観しています。

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西部邁

小菅 拘一

投稿者プロフィール

会社員、読書家。昭和57(1982)年生まれ。東京都葛飾区在住。戦後日本の陥った状況を「物語の喪失」と捉え、その取戻しに資する書物の探索と読書とその箚記付けに勤しんでいる。

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