テロとグローバリズムと金融資本主義(その2)
- 2015/12/22
- 国際, 社会
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ISをめぐる関係各国の以上のような複雑で危険な絡まり具合は、第一次大戦勃発前夜に非常によく似ています。そうしてその絡まりの原因が、第一次大戦の時と同じようなグローバリズムから起きてきていることも明瞭に思われます。違っているのは次の点でしょう。
①戦場が第一次大戦当時の帝国主義諸国であるヨーロッパにはなりえないこと。
②現在の中東の混乱を引き起こしたのは、かつての覇権国家・大英帝国ではなく、覇権が後退しつつあるアメリカであること。
③敵対勢力が、かつてのように列強どうしではなく、富裕層と貧困層という、階級間対立の様相を呈していること。
①について。
これは、(その1)で示したように、EUが全体として解体の危機に直面するほど衰弱しており、押し寄せる民族大移動やテロから自国を守るのに精いっぱいであるという事情が関係しているでしょう。そうしてこの事情が、域内グローバリズムの理念を戴くEUが自ら招きよせたものであることも、すでに述べました。
②について。
アメリカは、地政学的にこの地域から遠く離れている上に、文化的土壌もまるで違います。自国の理念である「自由と民主主義」を普遍的価値として、途上国にも強引に適用しようとしたところから、いわゆる「アラブの春」が始まったわけですが、部族間闘争の勝利者によって統治される独裁国家体制を取り、イスラム独特の宗教的慣習を重んじるこの地域に、こうした観念的な「民主化」を押しつけるのはもともと無理なのです。このアメリカの無知と傲慢によって、中東・北アフリカ地域は引っ掻き回され、現在もその混乱が続いているわけです。
アメリカは、引っ掻き回しておいて、もはや覇権国家としてのきちんとした責任を果たすことができなくなっています。それを最も象徴するのが、化学兵器使用を理由としたシリア攻撃を宣言しておきながらドタキャンし、尻拭いをプーチン大統領に任せてしまったオバマ大統領の振る舞いでした。アメリカはいま、超大国のメンツから、相変わらず「自由・平等・民主の普遍的価値」を掲げていますが、本音では、失敗を感知していて、逃げの姿勢を取ろう、取ろうとしています。つまりモンロー主義に引きこもりたくて仕方がないのですね。
おまけに、シェールガスの生産が供給過剰なほどに定着し、アラブ諸国との間に、石油・天然ガスをめぐる濃厚な利害関係を維持し続ける必要がなくなっています。中東・北アフリカ問題の解決をアメリカに期待するのは、どう考えても無理でしょう。こうしてグローバリズムは、暴れまわりながらも、一方では、暗礁に乗り上げているとも言えます。
③について。
これは、現象を見ていれば明らかで、貧困層は経済力や軍事力の面で劣るために、テロ(ほとんどが命を賭した自爆テロ)という形を取らざるを得なくなっています。ここにこそ、行き過ぎた金融資本主義による、貧富の格差の異様な拡大が強力に作用しているということができましょう。したがって、現在の戦争状態は、同時に世界革命へと発展する兆候を孕んでいるのです。
今のところ、この対立は、キリスト教文化圏とイスラム教文化圏との宗教的対立という、いわゆる「文明の衝突」のかたちとして現れています。貧困者の世界的連帯が形成されているわけではありません。しかし、この対立の根底には、グローバルな金融資本がもたらした超格差の問題が横たわっていることは明らかです。そうしてこの超格差の問題自体は普遍的ですから、世界中どこの国でも見られる現象です。つまり、いささか乱暴に言えば、マルクスが展望したような、世界革命の物質的条件だけは整いつつあるということなのです。たまたま強固な原理主義的宗教共同体(その強固な宗教共同体の精神的な強固さの原因も物質的な貧困に求められます)がラディカルな運動を展開しているために、正義感や孤立感や闘争心の強い青年たちがそこに惹きつけられていくという話なのです。
もしあなたが、暴動や革命を本当に避けたいと思うのだったら、以上の事実をよく認識した上で、グローバルに広がった金融資本主義システムに対して、それを修正し、より公平な分配のシステムを新たに構想するのでなくてはなりません。私は別にかつて存在した社会主義国家を復活させよなどと言っているのではありません。それが失敗した原因は、ここでは詳しく述べませんが、いろいろ考えられます。ただ、これまで現実に存在した社会主義国家なるものが、少しも本来の社会主義の理念を実現したものではなかったという事実だけは押さえておくほうがよいと思います。
次回は、この格差問題について、わが国も例外なく深刻な状態に置かれており、しかもこの国の為政者たちがほとんどその事態を重視せず、逆にますますその状態を助長させるような政策をとっている、その危険性について述べます。
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