テロとグローバリズムと金融資本主義(その2)

 さてご存じのとおり、ISをめぐる関係各国の状況は、三つ巴、四つ巴に入り乱れて、世界戦争への発展の兆しを見せてきました。簡単におさらいしておきましょう。

 ロシアは9月28日、ISへの爆撃を開始しました。これがかなりの成果を上げており、それまでのアメリカのIS爆撃が本気ではないことが暴露されました。アメリカはシリアの反アサド勢力にテコ入れするためにISをひそかに支援してきたことは明らかだというのが大方の見方です。ロシアにしてみれば、シリアに軍事基地があり、アサド政権とは強く結びついていますから、これは当然の措置と言えましょう。

 10月31日にはロシア旅客機がエジプトのシナイ半島で墜落し、乗客乗員224名が全員死亡、IS傘下のグループ「シナイ州」が犯行声明を出しました。ロシアははじめ慎重な態度を取っていましたが、やがてIS勢力によるテロと断定しました。この事件は、もしテロであることが本当なら、IS勢力がエジプト内に相当根を下ろしつつあることを示しています。ISの次なる目標はエジプトであるという複数筋の分析も、現実性を帯びてきているようです。

 また11月18日にはロシアは原油を積んだISのタンクローリー500台を爆破しました。プーチン大統領はISの原油がトルコに輸出されている確かな証拠があると言明しています。このタンクローリーは、エルドアン大統領の息子が経営している会社のものだということも暴露しました。トルコのエルドアン大統領はもちろん否定しましたが。

 さらに11月24日にはトルコが、ロシアの戦闘機を、わずか17秒の領空侵犯を理由に撃墜し、両国の間に一気に緊張が高まりました。この撃墜は明らかに意図的に行われたもので、エルドアン大統領の思惑にはおそらく、露土戦争による敗北の積年の恨みという民族感情を利用して、NATOの支援をバックにそれを晴らそうという欲求、フランスのオランド大統領から見返りにEU加盟の密約を得たことなどがあるのでしょう。

 トルコはまた、10月14日、ISと闘っているクルド人武装組織に米露が武器供与などの支援を行っていることが許せないとして、両国を非難しました。
http://www.afpbb.com/articles/-/3063153

 トルコは一応IS爆撃に参加して国際的な連帯のポーズを取ってはいますが、本音では、ISよりも自国内のクルド人武装組織の方が、秩序を脅かすテロ組織だということになります。ちなみにアメリカは、イラク側のクルド人に対しては、イラク戦争以来、一貫して支援を行っています。

 いずれにしても、ここから見えてくるのは、大国ロシアに対するトルコのむき出しの敵対意識と「オスマン帝国」復権の野望でしょうが、今のところこの野望は、国際的には成功していないようです。

 しかし米露仏にしても、フランスの呼びかけで、まずは「テロ組織」ISを滅ぼすことを優先順位として結束しようという建前を一応とってはいるものの、この結束はIS周辺国間の複雑な情勢を考えると、うまく成立する見込みは薄弱です。

 最近では、イランがIS爆撃を行ったというケリー国務長官の発表もあります。
http://www.meij.or.jp/members/kawaraban/20141204164006000000.pdf

 真偽のほどはともかく、これはIS掃討という限定的な局面ではロシア、イラン、アメリカの連携の可能性を示唆しています。しかしこれによって、クルド人に関してまったく立場の違うトルコが一層アメリカに対して敵対感情を募らせることが予想され、サウジアラビアも、核をめぐってイランとの協調路線を歩もうとするアメリカには早くからはっきりと反対を唱えていますから、サウジのアメリカ離れはますます進むでしょう。

 さらにイスラエルのIS支援が取りざたされてもいます。イスラエルは石油がほとんど採れず、しかも周辺の産油国は敵対国ばかりです。最近発見されたゴラン高原の石油を採掘できれば自給が可能になりますが、シリアのアサド政権は自国に採掘権があると主張しており、これを倒そうとしているISは、イスラエルにとって大きな利用価値があることになります。
http://www.mag2.com/p/money/6603

 最近イラクで捕縛されたIS戦闘員が、じつはイスラエル軍の大佐だったなどという情報もあり、こうなると、ロシアとイスラエルが、IS掃討やアサド政権の支持、不支持をめぐって深刻な敵対関係に発展することも予想されるわけです。
http://www.mag2.com/p/money/6712/2

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西部邁

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