集団的自衛権と憲法改正(その4)

第六章 裁判所

第五九条(司法権) 司法権は、最高裁判所および下級裁判所に属する。
第六〇条(司法権の独立) 何人も、司法権の独立を侵してはならない。
第六一条(裁判官の身分保障) 裁判官は、法律で定めた欠格事由に相当する場合、および弾劾裁判による罷免の場合を除き罷免されない。
第六二条(裁判官の指名、任命、任期) 最高裁判所長官は、内閣が指名し、その他の裁判官は、最高裁判所の指名に基づき内閣が任命する。
2  裁判官の任期は10年とし、再任することができる。
第六三条(終審裁判所) 最高裁判所は、一切の法律、条約、命令、規則、処分の憲法適合性を判断する終審裁判所である。
第六四条(裁判の公開、非公開) 裁判所の審理および判決は、公開の法定で行う。
2  裁判所が裁判官の全員一致で、公の秩序に重大な支障が生じる惧れがあると判断した場合には、審理を非公開とすることができる。

第七章 財政

第六五条(財政の運営) 国の財政は、国会の議決に基づいて運営される。
第六六条(租税法律主義) 新たな課税または現行の租税の変更は、法律によらなければならない。
第六七条(国費の支出および国の債務負担) 国費の支出および国の債務負担については、国会の議決を必要とする。
第六八条(会計検査) 国の収入支出の決算を検査する独立機関として、会計検査院を設置する。
2  会計検査院は、次の年度に検査報告書を国会に提出する。
3  会計検査官は、国会の同意を得て、内閣が任命する。この案件は先に参議院に提出しなければならない。

第八章 補則

第六九条(憲法の最高法規性) この憲法は、国の最高法規であり、これに反する法律、条約、命令、規則、処分は、効力を有しない。
第七〇条(憲法の改正) この憲法の改正は、各議院の総員の過半数の賛成により発議され、国民投票において、有効投票の六割の賛成によって成立する。
2  前項の成立の後、天皇は、直ちにこれを公布する。
                                                                            以上

1 2

3

西部邁

小浜逸郎

小浜逸郎

投稿者プロフィール

1947年横浜市生まれ。批評家、国士舘大学客員教授。思想、哲学など幅広く批評活動を展開。著書に『新訳・歎異抄』(PHP研究所)『日本の七大思想家』(幻冬舎)他。ジャズが好きです。

この著者の最新の記事

関連記事

コメント

  1.  少し遅くなりましたが、御説の驥尾に付して、愚考を申し述べたいと思います。
     お考えの根本には全く異論がありません。憲法の性格などについて、多少違和感が持たれましたが、これは以前にも申し上げたようなことで、大したことではありません。
     目下、磯崎補佐官の失言問題が大きな政治問題になっているようですが、これまた大したことではない。だいたい、「法的安定性」なんて言葉、今まで聞いたこともない、という人が大部分ではないですか?
     それはまあ、法の、特に憲法の解釈が、コロコロ変わるのはよくないですから、失言は失言ですが。しかし、逆に、一度出た法律やその解釈は、未来永劫変えてはならない、などと言ったら、そのほうがずっとまずいですよね。
     法も解釈も、時代に応じて変えるべきものです。その場合一番の問題になるのは、その変更の妥当性であることは言うまでもありません。しかしこれが、なかなか議論の焦点にならない。
     それは何よりも、憲法九条に象徴される日本の平和主義が、一身の安全を願う(もちろんそれ自体は少しも批判されるべきことではありません)国民の、感情にのみ訴えてきたせいです。戦争なんて考えたくもない、可能な限り遠ざかっていたい、そうすればわが身は安全なんだ、というような。

     この間知り合いの憲法学者が、「現憲法は安全保障の問題については何も言っていない。従って、安保法制は違憲になりようがない」と言ったのを聞いて、とても新鮮でした(彼はもちろん憲法学者の中の異端児で、今以上の出世が望めなくなるのは気の毒だな、と余計なことを考えてしまいました)。
    「強いて今回の法案の根拠を憲法に求めるなら、第九十八条(条約及び確立された国際法規の遵守)だ」
    とも。なるほど、小浜さんもご指摘のように、国連憲章でも、日米安保条約でも、それからサンフランシスコ講和条約でも、集団的自衛権は認められているんですな。
     これに対して、安全保障の問題に関しては、憲法の前文で言及されているじゃないか、と言った人がいます。「(前略)平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」というところですね。
     これは、福田恆存が夙に指摘したように(「當用憲法論」)、「われらは国の安全保障なんて考えません」と、「積極的に」宣言したということですよね。
     世界の諸国民が本当に公正で、信義を重んじるとしたら、自分の身の安全を守ることを考える必要なんかないわけですから。むしろ、考えたら、諸国民の公正と信義を信頼していないことになるので、失礼でもあれば、危険でもある、ということにすらなる。
     こう言うと、悪い冗談のように見えますが、これは実際に、日本の平和主義を支える感情の内実だ、と言っていいようです。
     これに対してさらに、先の人は、「『諸国民』は国家とは違う」とおっしゃいましたが。いやあ、どこの国の国民でも、国に命じられても、日本を攻めるなんて不公正なことはしない、その場合は必ず国に背いてくれる、と言うならですけど、それこそ悪い冗談でしょう?

     安倍内閣は目下、このような理不尽(論理を尽くすことはむしろ拒否する)な感情を主な対手としているので、たいへんなんですが。それはまあ、現首相のお祖父さんの時も、さらにその前も、そうだったので。もうみんな、飽き飽きしませんかねえ。
     私のような一庶民とは違い、政権政治家は、現実を動かさなくてはならないので、どうしても現実と妥協しなければならないところもある、とは理解できます。それにしても。
     小浜さんがおっしゃるように、安保法案は、ネットを含めた各種報道で具体的に中身を知ることができますし、各種の解説も現になされています。それでも理解できない、という庶民を相手に、できるだけ噛み砕いて伝えようとすると、ちょっと「え?」というような感じになることがあります。
     この間安倍首相自らがTVで言っていた、「今までは自分の家(日本のこと)が実際に燃えたら消火活動にとりかかることができるだけだったが、今後は火の粉が飛んできた時点で対処できるようになるんだ」というの。どういう比喩か、実際の法案にあてはめるのに、かえって大きな知力と労力がかかってしまいそうな。
     それから、最初の頃言われていた、「韓国で戦争が起きた時、日本人がアメリカの船で避難しようとしたら、その船が攻撃された、その場合……」云々も、言いたいことはわかりますけど、その前に、話がやたらに細かいので、「本当にそんなことがあるの?」と思われてしまいませんか?

     問題は、前述の「感情」から「論理的」に出てくる、最も基本的な「戦後レジーム」から、安倍内閣といえども脱却できないところにあるのです。即ち、
     ①日本自身はわが身の安全保障を考えることはできない。②その代わり、日本はアメリカに守ってもらう。③ただ守ってもらうわけにはいかないので、アメリカにできるだけ協力する。
     こんな順番でしか考えることができない。本来は、
     ①自分の国は自分たちで守る。②しかし現在、単独防衛は極めて困難なので、アメリカの協力を仰ぐ。③ただ協力してもらうと言うわけにはいかないので、相手に対してこちらも応分の協力をする。
    になるのが正常であるはずなのです。③の部分は結局同じだろうと思われるかも知れませんが、①の、主体の部分が違うということは、実際問題としてもたいへんな違いをもたらします。
     もちろん、アメリカもタダで日本を「守ってきた」わけではありません。日米地位協定の枠をも超えたいわゆる「思いやり予算」だけでも、平成7年以降年に二千億円内外の金を日本は出しています。
     しかし、「お金をあげるから、守ってね」というのはどうも……、と、アメリカ人はもちろん、日本人だって思えてきてしまいませんか? 第一これでは、戦争を否定していない。ただ、自分たちはやりたくない、と言っているだけだ。それはアメリカがやれ、と。「なんかズルい。人としてどうよ」とも。
     第一、「日本を守る」主体がアメリカにあるのでは、その点に関しては日本はアメリカの言いなりになるしかないように感じられませんか? そのために憲法の枠が役立つ、と言われるのでしょうが、辛うじてその枠内に入りそうなことなら、断れないような。
     現に、平成十五年のイラク特措法によって、我が国は、安保法制なんて待たずに、実質的にアメリカ軍の後方支援を行っているんです。このときのいわゆる第二次湾岸戦争には、周知のように、フランスやドイツは参戦を拒否しています。それは、各国にはそれぞれの事情があるに違いないので、一概に何が正しいかを言うつもりはありません。でも、どうですか? 
     日本って国は、
    「今度の戦争に理があるとは思えない。従って協力はできない」
    なんて、タテマエにもせよ、堂々と言えると思いますか? だって、どうせ、どんな戦争にも協力しないのが国是(これもタテマエですが)なのに。そんなエラソーなことを言うのは、柄に合わない、と、自ら思えてこないですか?
     思想的には、これこそ一番乗り越えるべき戦後レジームではないでしょうか。
     ただ前にも言ったように、現実には、いろんな妥協を経なければものごとが進まないのも本当でしょう。早い話が、憲法を変えようとしても、当分はできそうにない。ならば、姑息な弥縫策に見えないことはなくても、今度の安保法案も一つの試みとして、賛成せざるを得ない、と現在のところ私は考えています。
     これによって、アメリカの都合だけで戦争に駆り出されるんじゃないか、という心配とは真逆に、少しでもかの国と対等にものが言える立場に、「心理的に」近づくためには、世界には戦争はあるんだという厳然たる事実からは目を背けないことが大事だと思いますから、その意味で。
     それとは別に、市井の言説者としては、憲法改正を考える形で、根本的に「戦後」の総体を乗り越える思索を積み上げていきたいものです。この点でも、小浜さんの活動は貴重で、もとより微力ではありますが、共闘していきたいものだ、と考えます。

     私の悪い癖で、また長広舌になってしまいました。最後に、お詫び申し上げます。

  2. 由紀草一さんへ。

    意と理を尽くしたコメント、ありがとうございます。
    言いたかったことを丁寧に代弁してくれているようで、あまりつけ加えることはないのですが。二言、三言蛇足を。

    繰り返しになりますが、法案の国会審議は、どんなにおかしな憲法だろうと、その憲法の枠内でやらなくてはならないので、安倍内閣の苦しさ、涙ぐましさがにじみ出ていて、この暑いなかでまあ、愚劣な議論を相手によく辛抱するなあ、それが政治家たるものの欠くことのできない要件なんだなあ、俺にはとても出来んなあ、とヘンなところに感心しているわけです。

    ですから、そもそも現憲法の建前の下では日本は自分の国を自分で守ることができない(つまり国を挙げて安全保障を放棄している)という状態が続く限り、いかなる政権も戦後レジームを脱却できないというのはおっしゃる通りなのですが、この自分のしっぽを飲み込んでいる蛇のような状態、世界で現に起きている、また起こることが想定される戦争に対して、国家として何も公式的な意見を言えない状態は、とにかく何とかしなければいけませんね。

    その場合、一番厄介なのは、これもおっしゃる通り、国内世論の多数を占める法制化反対意見のうちに巣食っている「理不尽な感情」ですね。これは、60年安保の時にすごい勢いで盛り上がった(そして潮が引くように鎮まり、今ではあの改定に誰も反対しない)ことからもわかるように、いつの時代でも同じです。挑発的なニーチェの言葉を引用するなら、「賎民が論拠なくして信じたことを、どうして論拠をもって覆すことができよう。」

    今度の場合は、左翼マスコミがいくらたきつけようと、国会前のデモ・集会はわずか400人だそうですから(このみすぼらしいさまを、中立性の装いのもとにさも大事であるかのように必ず時間を割いて報じるNHKの姿勢も問題ですが)、運動としてはほとんどないも同然。これがせめてもの救いと見るほかはなく、このたびの安保法制化にしても、自主憲法構想の議論にしても、あまり感情的反対論など気にせずに「粛々と」進めるほかはない、という月並みな結論に落ち着くでしょうか。

    「憲法の性格」に関する私見(主として「国民主権」否定論と、いわゆる「立憲主義」的解釈への異論だと思いますが)についての貴兄の違和感に関しては、大事な論点だと思いますので、機会があれば議論を深めましょう。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 2015-3-2

    メディアとわれわれの主体性

    SPECIAL TRAILERS 佐藤健志氏の新刊『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は…

おすすめ記事

  1.  現実にあるものを無いと言ったり、黒を白と言い張る人は世間から疎まれる存在です。しかし、その人に権力…
  2. 多様性(ダイバーシティ)というのが、大学教育を語る上で重要なキーワードになりつつあります。 「…
  3.  経済政策を理解するためには、その土台である経済理論を知る必要があります。需要重視の経済学であるケイ…
  4. ※この記事は月刊WiLL 2015年4月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ 「発信…
  5. 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」がアカデミー賞最多の6部門賞を受賞した。 心から祝福したい。…
WordPressテーマ「CORE (tcd027)」

WordPressテーマ「INNOVATE HACK (tcd025)」

LogoMarche

ButtonMarche

イケてるシゴト!?

TCDテーマ一覧

ページ上部へ戻る