やめてください、「朝貢」は――中韓に膝を屈する自民党有力政治家

中国がないと日本は成り立たないというのは、単なる思い込みに過ぎません

 これは、二階氏ひとり、習近平氏ひとりの頭の中や人格がどうとだけ言って済ませられる問題ではありません。与党である自民党のなかにこういう愚行を許す「空気」が根強く残存しており、それがせっかくの安倍政権の外交政策や安全保障政策の障害になるのではないか。その隠然たる力を無視することはできないのではないか。

 この空気を醸成している条件は大きく言って二つあります。

こちらから膝を屈して中国との親善を政治的に図ることに何か意味があると思い込んでいる人がいまだに多い。

日本は貿易依存国であり、その点で中国とは経済的に切っても切れない関係にあると思い込んでいる人がいまだに多い。

 ①は、言うまでもなく、80年も前の満州事変、日中戦争などの時点における不幸な日中関係をネタに反日宣伝を繰り返す中国の道徳的圧力を、現代の日本人が毅然と跳ね返すことができない自虐史観に基づいています。しかし中国への侵略行為に対する日本国家の政治責任はとうの昔に果されていますし、莫大な経済援助も行い、謝罪も数え切れないほど繰り返されてきました。しかも謝罪すればするほど、中共政府がそこにつけ込んでくるのは、ここ数年の彼らの態度を見れば明らかです。

 何よりも、現在の中共政府は、日中戦争時はおろか、戦後の東京裁判の時点でも存在していなかったのであり、彼らが欧米などの戦勝国の論理に便乗して、「南京大虐殺」宣伝や首相の靖国参拝批判に象徴されるような居丈高な恫喝を日本にかけてきたのは1980年代になってからのことです。ここに、現在の中共政府の狡猾な自己正当化の力学を読めない日本人は、よほどのお人よしです(多くの日本人はお人よしですが)。国民の鬱積した不満と国内の不統一の現実を国民の目からそらすために反日戦略を取るのは、中共政府の常套手段なのです。

 日本国民はそのことをよく見極めて、一丸となってこの不当な事態に(こちらも狡猾にかつ冷静に)対処しなくてはなりません。何も進んで卑屈な「朝貢」などする必要は毛頭なく、ただ「こちらはいつでも窓口を開いている。来たかったらいつでもいらっしゃい」と、泰然と構えていればよいのです(国防態勢だけはしっかり整えておかなくてはなりませんが)。二階氏に代表されるような勢力は、そうした国民の意志を挫く以外の何ものでもありません。

中国との貿易を停止しても、日本は経済的に困らない

 ②ですが、これは日本がまだ景気が良かったころ、そして中国の人件費が日本よりも格段に安かったころに、広大な市場を当て込んで日本の大企業が対中投資を拡大し、生産拠点を次々に中国に作った時代の話です。しかし、情勢は大きく変わりつつあります。

 経済評論家の三橋貴明氏によれば、2013年の対外直接投資は対前年比で10.4%も増加したにもかかわらず、対中投資はなんと32.5%も減少したそうです。減少分の多くは東南アジアへの拠点の移動などによって補充されています。
【断末魔の中韓経済】さよならチャイナ…日本企業が「無法国家」を続々と見限り|zakzak

 また今年に入って、パナソニックが家電生産の一部を国内に戻し、2月にはヱスビー食品が中国におけるカレールウなどの生産を中止したのは、耳に新しいところです。最近ではシチズンが中国からの撤退を表明しました。

 中国ではこれらの撤退の動きに対して、「行かないで!」とばかりに、労働者のストライキや無理無体な法的拘束に訴えているようですが、おそらくこの撤退の動きは止まらないでしょう。

 なお対中貿易額は、たしかに輸出入とも世界1、2位を争っていて、全体の2割ほどを占めていますが、日本はもともと貿易依存国ではなく、GDPに占める純輸出(輸出額-輸入額、これだけがGDPにとって意味があります)の割合は、せいぜい2~3%です。ということは、中国との貿易がGDPに与える影響というのは、わずか0.6%ほどでしかないわけです。ですから、仮に中国との貿易をすべて停止してしまっても、日本が経済的に困るということはほとんどありません。エネルギー資源、食料なども、中国からは(魚介類以外)輸入していないのです。
品目別輸出額の推移(年ベース)|財務省関税局税関統計

 以上でお分かりのように、日本は、政治経済ともに、隣国・中国の対日姿勢を過大に見積もる必要など全然ありません。そういう事実を知らない人が、中央政治の一角を担って、勝手な振る舞いをしているというのは、やはり困ったことではないでしょうか。

 ここでは二階氏をやり玉に挙げましたが、自民党のなかには、おそらくこの種の古いタイプの政治家がまだたくさんいると思います。わが国が自主独立・自主外交・自主防衛を目指そうとするなら、こうした「獅子身中の虫」をまず何とかしなくてはならないと考えるのですが、いかがでしょうか。

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西部邁

小浜逸郎

小浜逸郎

投稿者プロフィール

1947年横浜市生まれ。批評家、国士舘大学客員教授。思想、哲学など幅広く批評活動を展開。著書に『新訳・歎異抄』(PHP研究所)『日本の七大思想家』(幻冬舎)他。ジャズが好きです。

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