復帰から四十二年 誰が『沖縄の心』を知っているのか

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安保はオール・ジャパンで

 昭和二十五年に朝鮮戦争が勃発、米国の日本占領政策の大転換が行われた。憲法第九条の規定で戦力の不保持を謳っていたものの、米国は日本に再軍備を迫ることとなった。

 警察予備隊、保安隊、そして憲法に基づかない「自衛隊法」により、日本は自衛隊をもつこととなった。一方、朝鮮戦争を期に、沖縄の米軍基地の恒久化をめざした建設が本格化した。

 建設は本土の大手ゼネコンのほとんどが請け負った。建設が一段落して本土のゼネコンが引き揚げたあと、その技術と経験、建設機器を沖縄の地元業者が引き継ぎ、今日の沖縄ゼネコンの基礎をなしたとも言われている。

 基地建設に要する土地は「銃剣とブルドーザー」により米軍の強権によったといわれ、土地の賃借権設定は難儀を来し、米軍に土地代の一括支払いを強行しようとしたことに県民は反発、「島ぐるみ」の闘争となった。

 昭和三十年の初頭、国際人権連盟の要請で日本人権協会が沖縄現地調査を行い、この時、初めて本土で「沖縄問題」の論議が起こった。本土のマスコミが沖縄を扱ったのはこの時が初めてだったと言われており、それまで本土では限られた人たちの海外観光でしか沖縄に関心がなかったのである。この島ぐるみ闘争のなかでも、基地の建設は進んだ。

 一方、本土の米軍基地は五七年八月から地上軍が撤退を開始、東京オリンピック時にはその姿を消した。

 六〇年の安保改訂後は、本土に駐留する第三海兵師団が沖縄の北部(キャンプ・シュワブやキャンプ・ハンセン)に移転し、軍用地面積もそれに応じて本土・沖縄が六七年頃は半々だったのが、復帰時、沖縄が全国の米軍基地の七五%を占めるに至っていた(現在は七四%)。

米軍基地「甘えの構造」

 そもそも国の安全保障はオール・ジャパンで担うべきものであり、特定の地域に限定的に負担させることは、公平性から見ても異例であろう。だからと言って、全国一律に基地負担をせよということは現実的ではないし、また土地だけでなく、防衛機能は多種にわたるであろう。要は、安全保障の態様は地勢学的な妥当性と住民負担の許容とのバランスにある。

 わが国は、七年間にも及ぶGHQの管理下にあったこともあり、戦後の経済復興に意を注ぐ一方で、安全保障については米国への依存を大きくしていった。

 米国への依存はつまるところ、沖縄の米軍基地へ依存しているということ、すなわち沖縄に依存していることであり、これは明らかに「甘えの構造」である。

 換言するならば、日本が戦後一貫して戦争に参加することもなく、したがって一人も人命を失ったことがないと誇ることができるのは、憲法第九条そのものではなく、自衛隊、そして沖縄の米軍基地を含む安保条約に基づく米軍基地の抑止力のおかげである、と筆者は考える。

 この「甘えの構造」を沖縄の人たちは鋭く見抜いていることを、本土の人たちは身近に感じるべきである。さらに言えば、軍事基地はあくまでも平和のための抑止力であり、その代償である。軍事基地をなくせば戦争がなくなり、平和が守られるというのは幼稚な幻想に過ぎない。

 沖縄戦で深く傷ついた県民の一部には、「平和を祈念することは即軍事基地の全廃だ」と直結する向きがあるが、これは沖縄戦の経験からくる「沖縄戦史観」とでも言うべき後遺症である。

 さらに言えば、軍事基地全面撤廃とは、かつての「非武装中立論」「自衛隊は憲法違反」と軌を一にする、過去に淘汰された議論である。

 しかし、そのような立論をしたとしても、安全保障はオール・ジャパンであるべきであるとするならば、現状の沖縄の基地は一層、整理縮小すべきである。

 政府の努力もさることながら、本土側の理解ももっと深めるべきであり、また二十七年間の日本本土と分断され、空白のあった沖縄についてはなお一層、安全保障と抑止力の根元的な意味を政府は繰り返し、誠意をもって語るべきであろう。

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西部邁

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