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「国は県民に謝罪を」
政府は復帰後、本土・沖縄間のインフラ等の格差を埋めるため、沖縄振興開発特別措置法を制定した。この法律の特徴は、県や市町村への国からの高率補助と国が定める「沖縄振興開発計画」の原案作成権が県知事に与えられていることである。国の策定する計画に、知事に原案作成権を与える前例はこれまで皆無である。
この高率の補助率と言い、原案提出権と言い、すべて沖縄復帰に全力を注いだ初代開発庁長官・山中貞則大臣の一存で決められたことである。
山中大臣は派閥は中曽根派ではあったが、佐藤栄作総理とは個人的には昵懇の間柄であった。大臣就任にあたっては、総理に「沖縄について自分に全権を与えてくれ」と約束を迫ったことでも知られている。
沖縄復帰施策で他省庁(大臣も含め)と意見が対立しても、「沖縄については総理から全権を任されている」と言って押し切った。
自民党税調のドンとして、政府税調を相手にせずとばかり税制を取り仕切り、ミスター税調として名を馳せていたことで有名である。
佐藤総理が大蔵大臣の時に政務次官として仕え、その時、多くの代議士たちが予算獲得に政治力を発揮していた時代に、税が政策誘導の有効な手段となるとの信念のもと、大蔵官僚を相手に専ら税を勉強したということも、語り草の一つとして残っている。沖縄税制の特例措置のすべてが、これまた山中大臣の産物である。
さて、沖縄振興開発計画の原案作成権を県知事に与えたことは、できるだけ県民の総意を尊重する意思の表れである。
しかし、国として十分に実行可能なものでなければならないことは当然である。通常、国が策定する計画は、まず審議会を設け、計画の骨子となる事項を審議会にかけて議論してもらい、それを呑み込んで事務局が原案を作成して審議会に付議し、さらに閣議にかけて政府決定とする、というのが通例である。
沖縄振興開発計画の場合、国の審議会の前に県の審議会を通る必要がある。事務的にはどうしても県の案の主要な内容を事前に知っておくことが必要だった。
水面下で県案を入手したところ、事務的にどうしても問題とせざるを得ないことが二点あった。一つは、計画の前文に「沖縄戦それに続く沖縄が米軍の支配下におかれたことを、国が沖縄県民に謝罪すること」を入れるということである。
沖縄の心と独立論
沖縄県民の二十七年間の長きにわたって嘗めた辛酸、労苦はまさに筆絶に尽くし難いものであることは十分理解できるものの、政府原案(県知事作成)に政府が政府に謝罪するということは論理的に成立しない。
もう一つの問題は、「軍事基地の即時全面撤廃をはかる」という文言である。この軍事基地のなかには、自衛隊の基地も含められる。いくら知事に原案作成権があるからと言っても、この案は受け入れられない。
そこで「県との調整」ということで、本庁の担当課長が急遽、知事と会うことになった。現地の課長だった筆者も当然、立ち合った。
十月の初旬、アポをとってはいたものの、午前十時過ぎに知事室に入ると、知事は明らかに不機嫌そうだった。用件に入る前に、「こんなに早く着いて、米軍機(横田基地発)で来られたのですか」と知事は言う。課長も筆者も、悪意の冗談に身を固くした。
羽田発一番機で発つとこうなります、と一応理解してもらったものの、気まずい雰囲気のまま話し合いが終わった。いわゆる革新県政の頃である。
第一の点については論理的に合わないということで「謝罪」の文言はなしということにし、第二の点は「米軍基地の整理縮小」に改めることで一致した。この文言は、国会でも政府側もたびたび答弁していることでもあり、閣議前の各省説明でも防衛庁(現防衛省)も充分に理解してくれる自信もあった。第二次計画ののちも、ずっとこの表現を踏襲している。
ただ、二次計画の閣議前、当時の後藤田官房長官から総務局長へ「この表現を防衛庁は了解しているのか」という念押しの電話があった。カミソリ後藤田は、安全保障上、抑止力の制約に不安を感じたのかもしれないが、「防衛庁も了解しています」と言うと了解された。
沖縄復帰の国内事務の総大将だった山中貞則初代開発庁長官は常日頃、「沖縄の心を心として」と職員に訓辞を垂れていた。
その「沖縄の心」を具体的に知ることは、その立場によって区々であり一様に理解することは難しい。
かつて沖縄県知事だった西銘順治氏は、県議会で「ヤマトーンチュ(本土の人)になりたくてもなり切れない心のもどかしさ」と答えた。
また、現知事の仲井眞氏は「わが県が日本になって僅か百三十年。永遠に日本の一部という概念を捨て、日本と沖縄の関係を相対化することも必要ではないか」という県議会での質間に、「十七、八歳で東京に出たときから感じているし、七十四、五歳になっても思うことだ。県の行政官の頭にも絶えず去来している」と応じた。
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