復帰から四十二年 誰が『沖縄の心』を知っているのか

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沖縄にある「歴史問題」

 このことから、沖縄にはこれまで行ったことがないという総裁を筆者が御案内することとなった。

 儀礼的に米民政府を表敬(本土から公務で出張する場合は、常にこのことが必要だった)したあと、関係者三十名余が集まった会議を終え、その会場(沖縄では二流の料亭だった)で懇親会が催された。

 酒の席が少し乱れ始めた頃、一人の出席者が筆者ににじり寄って来て次のように言うのである。
「櫻井さん。我々ウチナーンチュ(沖縄の人)は、四百年前に島津の侵攻を受け、明治に入ってから独立国だった琉球王朝は潰され、そしてこのたびの戦争(沖縄戦)ではすっかり裸にされ、ようやく戦争が終わったと思ったら本土と切り離されて米軍の占領下に取り残され、全く何と言っていいか……」と、決して大仰ではなく静かに語りかけてきたのである。

 もちろん、目前の筆者を非難しているのではない。沖縄の人たちの置かれた現状を少しでも理解してくれという哀願にも似た語り口だった。

 島津の侵攻、廃藩置県による独立国であった琉球の消滅、そして沖縄戦に続く米軍の統治下に置かれる、の沖縄歴史の三点セットを直接、面と向かって沖縄の人から言われた初めての経験である。

 この沖縄歴史の三点セットはまさにセットとして語られて論じられ、そして対外的には半ば日常化されている。地元紙の主要論評しかり、読者欄においても、過重な米軍基地に苦しむ県民の現状を単純に論ずることもあるが、そもそも沖縄は……として、三点をセットにして現状を説明することが常態に近いのである。

 最近では復帰後も、つまり米軍の統治が終わっても、依然として米軍基地が稠密に存続して県民の日常生活を圧迫しているとして、これが第四の歴史だとして四点セットとするケースもある。

 さて、この沖縄歴史の三点セットは多くの場合、「沖縄差別」として語られる場合もある。

 沖縄戦のことは、沖縄を訪ねたことのない人でも大抵は知識として知ってはいるが、そもそもこの三点セットを理解していない者に対しては「無関心者」「無理解者」のレッテルを貼り、またウチナーンチュとして自らの世界に閉じ籠もる向きがないでもない
 これは心の問題でもあり、見解や認識の差として片付けることが非常に難しい問題である。特に「沖縄差別」だとなるとやや感情的になり、双方にしこりを残すこともある。

 筆者は長いこと沖縄にかかわってきたことから、沖縄には多くの古くからの友人、知人がいる。沖縄歴史の三点セットについては、それは事実として受け入れてはいるものの、それが現実の交遊に暗い影を落とすことはこれまで一度もなかったこともまた事実である。

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西部邁

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