経済成長によって失われるものー「喜び」が失われる社会ー

安楽との向き合い方

藤田氏の指摘した「安楽への全体主義」をもとに考えると、ASREADで何度か議題に挙がっている移民政策の問題点が浮き彫りになってくる。移民の働き先として家事を代行する、メイドが挙げられるが、家事を代わってもらうことによって何か失われるものはないだろうか。確かにメイドが家事を行えば、今まで主婦だった女性は働くことが出来るだろう。しかし、それによって、日本の家庭から、家事を継続する忍耐、家事をすることによって得られる周りからの感謝、そして、家庭の味が無くなってしまう危険性がある。それらは失って良いものなのだろうか。
近年の食事一つを取っても新しい技術は我々から当たり前だったものを失わせている。生産技術、保存技術、運搬技術が高まったことにより、家庭外で調理された食品を家で食べる中食と言われる食事方法が一般的になった。そうした便利さによって、料理の出来る女性の減少という社会的な損失を我々は既に支払っている。そのような弊害に出会った時、対策を打つことは難しい。「最近、料理の出来ない女性が増えている」などと文句を言うことが精いっぱいなのである。同じように移民が家事を代行するようになれば、「最近は家事の出来ない女性が急増している」などとさらに不満がることは目に見えているのだ。
藤田氏は「安楽への全体主義」から抜け出すためには、全体主義を自覚し、失ったものを取り戻そうと小さなことから努力しなくてはならないと指摘している。しかし、その指摘から約30年経った2014年でも不快とつきあうことによって得られていたものを模索しようとする声は、政治からも、民意からも聞こえてきそうに無い。それどころか、求めているものは、移民、カジノ、特区とまだまだ国民には安楽が足りていないようである

参考・引用文献
著 藤田省三(1985年)「安楽への全体主義」『全体主義の時代経験』みすず書房

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西部邁

大貫直哉

大貫直哉学生

投稿者プロフィール

東京都出身 1991年生まれ
現滋賀大学院経済学研究科一回生 専攻は経済思想 大学時代の専攻は貿易実務。

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