フィリピン台風で明らかとなった国土強靭化の重要性
- 2014/1/12
- 社会
- グローバル化, フィリピン, 国土強靭化
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昨年11月に発生した台風30号がフィリピンに甚大な被害をもたらしました。死者が6000人を超え、行方不明者が約1700人います。約1600万人が被災し、約400万人が避難生活を強いられています。インフラや農業へのダメージが840億円と言われています。亡くなられた方々のご冥福を祈るとともに、被災地が一日でも早く復興することを願っています。
「供給能力」の低さゆえに十分な救援活動が行えなかった
今回の災害でフィリピン国家経済の「供給能力」の低さが浮き彫りになりました。インフラや制度や体制の欠如や不備による救援の不十分さや遅れが目立ちました。日本は東日本大震災が発生した直後に行政や地元の建設会社が動き出し瓦礫の撤去などを行い、自衛隊が大規模な捜索・救助活動を開始しました。しかしフィリピンの場合、台風30号が直撃してから5日程経っても被災地の現場では組織的な救援活動が行われているようには見えないと、現地を取材していた記者が言っていました。国内や海外からの救援物資を被災地までなかなか運ぶことができませんでした。そして、救援が来ないため被災者がパニックに陥り、所々で略奪や場合によって死亡事件までが起きました。
東北の被災地では略奪などが起きなかったこと、また被災した方々が見せた「我慢強さ」が世界を驚かせました。これは、日本国民の民度の高さが根底にあるのは事実ですが、同時に日本人は、自然災害などで被災した場合、「誰かが助けに来てくれる」という「期待」を持てるのです。また、電気や水道などのライフラインが途切れても復旧が早く、一時的な物不足が発生しても、日本の企業がその生産量を増やし、すぐに不足分を補充できます。日本経済の供給能力や国全体の体制がこれだけ整っているからこそ日本人が過酷な状況を耐え忍ぶことができるという側面があると思います。一方、フィリピン人は、残念ながら国にあまり期待できません。従って、被災したときに助けが来ないのなら、誰だって「略奪」に走ってしまうのでしょう。幸い、そのあと徐々に海外からの支援が被災地にたくさん来るようになりました。しかし、これから被災地が復興するには、その原動力が国内から出てこなければなりません。
グローバル化がフィリピン経済の発展を閉ざしている
フィリピンの供給能力がなぜこんなに低いのでしょうか。いつまでも「発展途上」の状態から抜けられないでいるのはなぜでしょうか。人材や資源が足りないからでしょうか。いいえ、そうではないと思います。フィリピンは、人口が9800万人もあり、鉱物資源や海洋資源などが豊富な国です。識字率も90%を超えていて、比較的高い方です。しかも英語が公用語になっています(だからなに?という話を置いといて)。それにもかかわらず、フィリピンの国内総生産(GDP)が約2500億ドルと、人口約700万人の埼玉県と同じ規模です。「フィリピン人は働かないからだ。自己責任だ」という人がいるかも知れません。しかし、フィリピン人だって、生きるために一生懸命に働きます。フィリピンの国民経済が、働いても所得をそんなに稼げないという構造になっていることが問題なのです。
フィリピンの供給能力の低さは結局、国のインフラを整備し、国内の経済を活性化し、国民の所得を引き上げる効果的な政策が欠けていることが根本的な原因だということは明らかだと思います。それで、高等教育や専門教育を受けても、国内で就職できるとは限らず、あるいは就職しても給料が低いため、1200万人ものフィリピン人が海外へ出稼ぎに行っています。フィリピン人には愛国心がないかと言えば決してそうではないと思います。私が子供のころ、学校で毎週、生徒たちが校内で集まり、国旗掲揚と国歌斉唱を行い、その後皆で「愛国心の誓い」を唱えていました。いざとなれば、フィリピン人は国を守るために戦うと思います(勝てるかどうかは別として)。問題はやはり、経済が本当の意味で成長するだけの「適切な」政策が欠如しているとしか言いようがないのです。
フィリピンがこうなってしまったのは、様々な歴史的な理由があります。約400年に渡るスペインやアメリカによる植民地支配という究極の「グローバル化」の影響が大きいのです。植民地支配の目的は、現地人のために国内経済を開発するのではなく、外国人のために植民地の人や資源を搾取することだからです。そして、独立国家になってからも、フィリピンはアメリカの影響などで「グローバル化」を続けてきました。現在における「グローバル化」も、結局は国内の安い労働力が稼ぐ所得を外国に吸い上げられるという結果をもたらすという意味で、一種の「搾取」だと言えます。海外の投資家の利益を最大化するために国民の購買力が低く抑えられ、国の産業政策においても外国に言われる通りにやっている状況では、国の供給能力がいつまで経っても上がらないのです。
「グローバル化」と「国土強靭化」はお互い真逆の方向に働く
フィリピンには、自然災害に対応する力が十分ではないため、日本政府が行おうとしている「国土強靭化」のような政策が必要なのです。日本も先進国としてフィリピンより遥かに災害に対する対応能力が高いのですが、東日本大震災で分かったように、それが十分だと言えず、日本列島を更に「強靭化」する必要が明らかにあり、やることがまだまだ山のようにある、ということです。しかし、「グローバル化」と「国土強靭化」はお互い真逆の方向に働くのです。日本もフィリピンも、グローバル化か国土強靭化か、どっちを選ぶか決断が迫られています。
コメント
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2014年 1月 22日
こんにちは、 素晴らしい投稿ありがとうございます。
この 国土強靭化だけではなく 英語の公用語、 グローバル経済と 読ませていただきました。
私が 常日頃考えていたことと まったく 本当に。。。 まったく同じ意見である事が驚きでした。 これからも 是非色々な投稿をお願いたします。
コメントありがとうございます。これからもグローバリズムの問題などについて投稿して行きたいと思います。よろしくお願いいたします。