TPA法案審議の裏で、為替版スーパー301条誕生か!?

TPP

 これまで米国議会によるTPA法案更新の議論がどのように動くのかを追いかけてきましたが、ようやく4月16日に2015年TPA法案が上院財政員会、下院歳入委員会と呼ばれる、貿易委員会に提出されました。議会運営で根回しが必要なのはアメリカも例外ではないようで、今年2月13日にマーク・ポーカン議員によって提出された今後アメリカが締結する全ての貿易協定にISDS条項の採用を禁ずる「アメリカの主権保護法案[注1]」のような痛快な法案も山のように出され、残念ながら審議もされずに廃案になっていきますが、TPA法案のように重要な法案提出の場合は、提出される前に一定以上の賛成が約束されるまで徹底的な根回しが行われるようです。そのためTPA法案は一旦提出されれば、少なくとも両院貿易委員会は通過するだろうと予測されていました。

貿易委員会の採決で決まったこと

 大方の予想通り、TPA法案とその他貿易関連法案は、上院財政員会では法案を出す前の公聴会開催、下院では公聴会後採決前に48時間以上の告知期間に片目をつぶるという異例な手続きを経て、4月22日に上院財政員会、23日に下院歳入委員会を通過しました。いったい何が決まったのか、様々な報道や法案の分析をもとに今のところ分かっている主要な事柄をまとめてみました。

◆上院財政員会は4月22日に20対6の強い結果でTPA法(2002年通商法ディビジョンB)を延長する法案を承認
◆下院歳入委員会は4月23日に25対13の賛成多数で同法案を承認
◆TPA以外に承認された貿易関連法案は3つ
 - 1年当たり4億5千万ドル規模のTAA(貿易調整支援)プログラムの6年間延長(2002年通商法ディビジョンA TitleⅠ
 - HCTC(医療保険税額控除/Health Coverage Tax Credit)プログラム(2002年通商法ディビジョンA TitleⅡ)
 - 3つの貿易特恵プログラムの延長(2002年通商法ディビジョンC、D)
 - 税関再授権法(2002年通商法ディビジョンA TitleⅢ)
◆シューマーの為替に関する修正案が財政委員会を通過
相殺可能な補助金の機能を果たす通貨安政策を商務省が捜査することを奨励する。
上記税関再授権法に、2015年2月10日に提出された新法The Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015として挿入される模様[注2]
◆人権に関する修正案が通過
国務省の年次報告書に、人身売買をなくすための政府の対応が最もひどいカテゴリに入れられたどの国とも拙速に十分な考慮もせず自由貿易協定を結ぶことを禁じるものだ。この2014年国務省年次報告書でマレーシアが対象となる「レベル3」のカテゴリに入っている。

2015年通商法

 最後の人権に関する修正案の行方も気になるところですが、詳細は別稿に譲るとして、今回の一連の審議について大枠を見てみたいと思います。先ほどからTPA法案と貿易関連法案と流して書いていますが、この貿易関連法案とは一体どのようなものなのでしょうか。一言で言うと、これらの法案もまた米国の通商法の一部なのです。前回、『今更聞けないTPP、協定の内容を知る人たちの正体』でご紹介したTPP協定の内容を連邦議会議員すら読むことができないのに、企業の代表だけが知り、意見をすることができる状況になった根拠となるあの法律です。
 ファスト・トラックが初めて明文化されたのは1974年通商法からですが、その後更新された最新の2002年通商法を見てみましょう。この法律は主にAからEの5つのディヴィジョン(区分)に別れています。法案の構成を簡単に示すと以下の通りになります。

―2002年通商法構成[注3]―
ディビジョン:この法律は以下の5つのディビジョンからなる。
(1)ディビジョンA TAA(貿易調整支援)
サブタイトルⅠ TAA(貿易調整支援)プログラム※2014年12月末失効
サブタイトルⅡ CHIC(医療保険税額控除)※2013年失効
サブタイトルⅢ 税関再授権(Sec.301)※2002年失効
(2)ディビジョンB TPA(超党派貿易促進権限)※2002年失効
(3)ディビジョンC アンデス国特恵法※2011年失効
(4)ディビジョンD 特定の貿易措置延長とその他の条項
(5)ディビジョンE 雑則

 
 このように2002年通商法に含まれるほとんど全てのディビジョンは既に失効しており、現在米国議会はTPA法の成立だけでなく、2015年通商法を作ろうとしているのだということが分かります。

→ 次ページ「シューマー修正案は、スーパー301条の為替操作版」を読む

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西部邁

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