マンデル=フレミング・モデルに対する誤解(3)ー 失われた20年の正体(その19)

金利変動効果が増幅される開放経済

これに対して、外国部門との取引があることを前提とした大国開放経済モデルでは、

YE=C+I+G+NX
(NXは純輸出)

を出発点とします。ここで、純輸出NX(外国部門から見れば純輸入)は自国から外国への純資本流出CF(外国から見れば、純輸入のための資金調達)に等しくなります。
さらに、純輸出は為替レートeが上昇(自国通貨安)すると拡大し、純資本流出は自国金利rが上昇すると縮小する(国外で資金運用する魅力が相対的に乏しくなるため)と考えると、

YE=αYI+I(r↓)+G+NX(e↑)=αYI+{I(r↓)+G+CF(r↓)}

という大国開放経済モデルにおける支出関数が導かれます(純資本流出に関しては、厳密には金利効果だけではなく、「国内所得増加⇒輸入増加⇒純輸出減少」という所得効果もあるので「CF(YI↓, r↓)」とすべきです。しかしながら、「輸入増加⇒海外部門の所得増加⇒輸出増加」という経路で相殺されるなど、影響が比較的軽微なので、ここでは所得効果を省いています)。
これを閉鎖経済モデルの支出関数と比較すると、純資本流出CFが加わっている分、金利が上昇した際の切片縮小インパクトが大きくなっています。したがって、金利上昇の程度が同じでも、大国開放経済モデルの支出関数の方がより大きく下方シフトし(図2の青い実線)、GDPの縮小度合もまた大きくなります(図2の黄色い点)。

【図2:金利が上昇した場合の支出関数のシフト(閉鎖・開放経済別)
スクリーンショット-2014-07-23-15.35

これは、IS曲線の傾きが閉鎖経済の時より緩やかになることを意味します(図3の青い実線)。また、「純輸出=純資本流出」の関係から、金利上昇と裏腹に為替レート低下(自国通貨高)が生じています。

【図3:閉鎖経済・開放経済それぞれのIS曲線】
図3

他方で、貨幣の需給バランスを示すLM曲線は、閉鎖経済でも開放経済でも変化しないと想定されています。

→ 次ページ「IS曲線の傾き縮小がもたらす政策効果の変化」を読む

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西部邁

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コメント

    • sugawara
    • 2015年 10月 24日

    マンキューでIS-LM?

    AS-ADですよね、マンキュー。

    財政+金融というポリシーミックス、IS-LMでは、需要のYしか示せず、供給のY=GDPを示せません。

    つまり、財政(効かないですが)+金融でいくら刺激しても、需要側しか増やせず、供給側=つまりGDPを増やすことができません。

    ただし、短期ASには金融は効きます。だから、需要・供給を刺激できるマクロ政策は金融。

    これがマンキューのAS-AD分析ですよね。

    IS-LMって、マンキューのどこですか?

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