マンデル=フレミング・モデルに対する誤解(3)ー 失われた20年の正体(その19)
- 2014/7/23
- 経済
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IS曲線の傾き縮小がもたらす政策効果の変化
以上の想定の下で、財政政策や金融政策がどのような効果をもたらすかを確認してみましょう。
まず、財政出動によって図4の青い矢印分だけ、IS曲線を右側にシフトさせるとします。すると、閉鎖経済なら黄緑、開放経済なら青のIS曲線が、それぞれ点線から実線にシフトします。
【図4:閉鎖経済・開放経済それぞれで財政出動した場合】
結果として、LM曲線との交点(当初は黒い点)で示されるGDPの水準は、閉鎖経済で者は赤い点、開放経済では黄色い点までシフトすることになります。この時、IS曲線の傾きが緩やかな分、開放経済の時の方がGDPの増加幅が小さくなっています。これは、「金利上昇と裏腹な為替レート低下(自国通貨高)による純輸出の減少によって財政出動の効果が減殺されている」と見ることができます(最終的な金利上昇幅も、外国からの資金流入によって減殺された形になります)。
これに対し、金融緩和でLM曲線を右側にシフトさせた場合は図5のようになります(赤い点線⇒赤い実線)。今度は逆に、開放経済の方がGDPの増加幅が大きくなっています。
これは、開放経済では、金融緩和による金利低下/自国通貨安によって純輸出(資本純流出)拡大が上乗せされているからです。つまり、IS曲線の傾き縮小が、財政出動の時とは逆の効果をもたらしているのです。
【図5:閉鎖経済・開放経済それぞれで金融緩和した場合】
以上より、
変動相場制の開放経済では、金融政策の財政政策に対する「相対的な有効性」が、閉鎖経済の時よりも高くなる。
という結論が導き出されます。
これが前回同様、「変動為替相場制のもとでは、財政政策よりも金融政策の効果のほうが大きい」という命題とは別物であることは明らかでしょう。
なぜなら、これもまた前回同様の極端な言い方をすれば、
閉鎖経済のもとでは「財政支出1円拡大の効果=マネタリーベース100兆円拡大の効果」だったのが、変動相場制の開放経済のもとでは「財政支出2円拡大の効果=マネタリーベース100兆円拡大の効果」に変化した(つまり、「財政支出1円拡大の効果<マネタリーベース100兆円拡大の効果」。
というケースであっても上記の結論とは矛盾しない一方、このケースにおいて、「変動為替相場制のもとでは、財政政策よりも金融政策の効果のほうが大きい」とは到底言えないからです。
結局、日本経済にとって比較的現実的な「大国開放経済モデル」もまた、リフレ派の議論を何ら支持するものではないのです(もちろん否定もしていませんが)。
(参考文献)
N. グレゴリー・マンキュー著、足立英之他訳「マンキュー マクロ経済学Ⅰ 入門編」(東洋経済新報社、2011年)
コメント
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マンキューでIS-LM?
AS-ADですよね、マンキュー。
財政+金融というポリシーミックス、IS-LMでは、需要のYしか示せず、供給のY=GDPを示せません。
つまり、財政(効かないですが)+金融でいくら刺激しても、需要側しか増やせず、供給側=つまりGDPを増やすことができません。
ただし、短期ASには金融は効きます。だから、需要・供給を刺激できるマクロ政策は金融。
これがマンキューのAS-AD分析ですよね。
IS-LMって、マンキューのどこですか?