炭水化物と景気循環~生態系としてのマクロ経済(前編)

景気循環を想定しない主流派経済学の非現実性

これに対して、主流派経済学では全ての経済主体(あるいは「代表的個人」)が合理的な期待の下で行動する(従って将来についても正しく予測して行動を最適化する)ことを前提としているため、上記のタイムラグのような「不均衡状態」は基本的に想定していません。従って、その「最先端理論」であるリアル・ビジネス・サイクル理論では、

景気変動とは、生産技術の変化や財政政策といった「外的ショック」のみによって生じる。

ということになっていて、そもそも「景気が循環する」という発想がありません(一時的なショックの後は、また新たな均衡状態に落ち着く、と想定されています)。
しかしながら、家計にしろ企業にしろ、半年、1年先であってもそうそう正しく予想できるものではないことは言うまでもありません。このことは特に、契約で決まっている訳でもなく、収入から費用を差し引いた結果でしかない「利益」についてあてはまります。
そうなると、ケインズが「」の第12章でも指摘したように、「変化を想定する特別の理由が無い限り、そうなることなどあり得ないと知りつつも、現状(つまり、目の前の状況)が無限に続くことを前提として」いわば慣習的に対応することこそが、主流派経済学におけるそれとは異なり、「相応の妥当性がある」という意味での合理的、あるいは自然な人間の行動と言えるのではないでしょうか。
そして、こうしたメカニズムによる不均衡状態が自然界でも現実に見出されることからすれば、景気循環の存否いずれを前提として「マクロ経済=人類の生態系」を分析し、政策を立案すべきかは、自ずと明らかではないでしょうか。

参考文献)
夏井睦「
炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学」(光文社、2013年)
平山修「Excelで試す非線形力学」(東京 コロナ社、2008年)
ジョン・メイナード・ケインズ「雇用、利子、お金の一般理論」(山形浩生訳、講談社学術文庫、2012年)

(糖質制限に興味がある方のための参考サイト)
夏井睦氏ウェブサイト
http://www.wound-treatment.jp/
江部康二氏ブログ(夏井氏によると、糖尿病の糖質制限治療の第一人者、だそうです)
http://koujiebe.blog95.fc2.com/

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西部邁

島倉原

島倉原評論家

投稿者プロフィール

東京大学法学部卒業。会社勤めのかたわら、景気循環学会や「日本経済復活の会」に所属。ブログ「経済とは経世済民なり」やメルマガ「三橋貴明の『新』日本経済新聞」執筆のほか、インターネット動画「チャンネルAjer」に出演し、日本の「失われた20年」の原因が緊縮財政にあることを、経済理論および統計データに基づき解説している。

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  1. 2014年 8月 14日

  1. 2014-8-6

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