炭水化物と景気循環~生態系としてのマクロ経済(前編)
- 2014/4/19
- 経済
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生物界にも存在する循環メカニズム
上記の内容が景気循環論とどう結びつくのか。実はこの本を読んで私が思い出したものの1つが、「ロトカ=ヴォルテラ方程式」という、生物界における捕食者と被食者の関係についての生態系モデルです。
その詳しい内容は、上記リンク先(ウィキペディア)などをご参照いただきたいのですが、要約すると、
- 被食者(例:ウサギ)は、(被食者の食料が十分足りている前提で)その個体数に比例して増加(自然増)する一方で、自身及び捕食者(例:ヤマネコ)の個体数に比例して減少する(その分捕食される機会が増えるため)。
- 捕食者は、自身及び捕食者の個体数に比例して増加する(被食者が減少するのと逆の論理)一方で、自身の個体数に比例して減少(自然減)する。
- 以上の前提でシミュレーションすると、特殊な初期値の場合を除き、被食者を捕食者が追いかけるようにして、両者の個体数が循環的に変動する。
というモデルで、被食者と捕食者の個体数は下記のように推移します。
【図1:ロトカ=ヴォルテラ方程式の下での被食者・捕食者個体数の推移】
ロトカ、ヴォルテラというのは本モデルを別々に考案した科学者の名前です。ヴォルテラ氏は、アドリア海の魚の個体数の観察結果から本モデルを導き出したそうです。
参考サイト:ロトカ・ヴォルテラ方程式(東京女子大学・浅川伸一氏のサイト)
なお、循環変動を伴う生態系のモデルはロトカ=ヴォルテラ方程式以外にもいくつか存在し、「Excelで試す非線形力学」という本で比較的平易に解説されています。
狩猟生物の本能が生み出す景気循環?
炭水化物から大分話が飛んでしまったようですが、
ロトカ=ヴォルテラ方程式は、人類の本来の姿でもある狩猟生物(=捕食者)の生態系を描いたモデルである。
というところで、夏井氏の議論とつながってきます。
他方で、私が「日本経済の成長&景気循環メカニズム」で提示した、内生的に景気循環が生じることを想定するマクロ経済モデルは、
直近の利益拡大が企業の設備投資意欲を刺激することで景気が拡大し、さらなる設備投資を誘発するが、あるところまで行くと設備投資の増加が減価償却負担を高めて却って利益の圧迫要因となり、景気縮小に転換する。
という構造になっています。
ここで、「設備投資⇒捕食者」「利益⇒被食者」と置き換え、企業活動を「狩猟本能に駆られた目の前の利益の追求」という生態学的な文脈で捉えてみれば、利益が自然増ではなく、誘発された設備投資自体によっても押し上げられる点こそ異なるものの、このマクロ経済モデルの循環メカニズムがロトカ=ヴォルテラ方程式とよく似たものであることが、イメージいただけるのではないでしょうか。
また、「日本経済の成長&景気循環メカニズム」では、内生的な景気循環の発生要因を「所得と支出の間のタイムラグ」と表現しましたが、このメカニズムは、ロトカ=ヴォルテラ方程式における「被食者・捕食者の個体数変動のタイムラグ」に相当します。
ちなみに、日本人と西洋人(特にビジネスの世界におけるアングロ=サクソン?)の気質の違いを説明する時に、「日本人は農耕民族、西洋人は狩猟民族」という表現が時折用いられますが、
景気循環とは、狩猟型生物(捕食者)としての人類の本能によって生み出される現象である。
と考えれば、言い得て妙かもしれません(実際には日本人にも狩猟型生物のDNAが存在しているので、文字通りの表現としては問題がありますが)。
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2014年 8月 14日トラックバック:【島倉原】景気循環と第二の敗戦 | 三橋貴明の「新」日本経済新聞
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