ケインジアンによる財政政策無効論? ー 失われた20年の正体(その9)
- 2014/1/30
- 経済
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こんにちは、島倉原です。
今回は、アメリカの経済学者クリスティーナ・ローマーが書いた“What Ended the Great Depression?(何が大恐慌を終わらせたのか?)”という論文(1992年、以下「ローマ―論文」)を取り上げてみたいと思います。
ローマー論文は、前回(マネタリズムを検証する)取り上げた1929年から1933年までの「大収縮」期以降の経済回復局面を分析対象として「金融政策と財政政策はそれぞれどのくらい、経済回復に貢献したのか」の検証を試みた上で、「経済回復に貢献したのは金融政策であって、財政政策はほとんど効果が無かった」と結論付けています。
この論文はいわゆるリフレ派の重要な論拠の1つとなっているようで、岩田規久男編著「昭和恐慌の研究」第6章でも「大恐慌からの脱出要因として金融政策の変化こそが最も重要であったことを主張する」代表例として取り上げられているほか、浜田宏一他著「伝説の教授に学べ! 本当の経済学がわかる本」に至っては、ローマ―を「大不況からの回復に効果があったのは財政政策ではなく金融政策と結論付けた1人」として紹介した上で、
「ケインジアン(筆者注:ローマ-は、学派としてはニュー・ケインジアンに属するとされているようです)の間でも、大不況からの回復過程では、財政政策は大した効果がなかったと言うことは合意事項なのです(by 共著者の若田部昌澄氏)。」
とまで言い切っているのですが、本当にそうなのでしょうか。
ローマ―論文の効果検証ロジック
ローマ―論文の分析手法を要約すると、以下の通りになります。
① 大恐慌手前の1920年代と、大恐慌後初めて完全雇用水準に復帰した1942年の実質GDP水準をトレンドラインで結び、「通常の経済状況で通常の政策運営がなされた場合に自然体で達成される実質GDP成長率(GDP成長トレンド)」を推計する。
② 「通常時におけるGDP成長率のトレンドからの乖離は、金融政策または財政政策(もしくはその両方)の通常運営からの乖離『のみ』によって生じる」と仮定する。
③ 1921年と1938年を、「前年の政策の通常運営からの乖離が、当年GDP成長率のトレンドからの乖離をもたらした典型的な当時のサンプル」として、その数値を②の仮定に基づく方程式に代入することで、それぞれの政策がもたらすインパクト(政策乗数)を算出する。
④ ③の算出結果を、大恐慌からの回復過程である1933年以降のデータにあてはめ、なおかつ「各政策が同時期に通常運営された」という前提で計算し直して「通常の政策運営がなされていた場合の同時期の実質GDP」を算出する。これを現実の実質GDPと比較することで、現実に取られた金融政策と財政政策がそれぞれどのくらいのインパクトがあったのかを算出する。
言い換えると、
(実質GDP成長率のトレンドからの乖離)=(金融政策乗数)×(前期金融政策の通常運営からの乖離)+(財政政策乗数)×(前期財政政策の通常運営からの乖離)
という式を前提として、
この式に1921年と1938年のデータをそれぞれ当てはめることによって2つの乗数を求めるための連立方程式を導き出し、
連立方程式を解いた結果を使って最終的には金融政策と財政政策の効果測定を行う、
という方法論であり、その測定結果に基づいて、
「大恐慌からの回復は概ね金融政策によるものであり、財政政策はほとんど効果が無かった」
と結論付けている、という訳です。
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