オウム真理教問題と現代日本の抱える親子関係の歪み

オウム真理教

先日、元オウムで、現在「ひかりの輪」の代表の上祐史浩氏のある講演動画(上祐史浩『オウム真理教の問題の心理学的な分析』)を見たのですが、上祐氏はこのオウムという集団と、現在日本の多くの家庭が抱いている歪んだ親子間の愛情関係について面白い考察をしていたので、今回は、その問題についてすこし考えてみたいと思います。

エリートたちがオウムに惹かれたのは、「愛情の不足」によるものだった

氏は、オウムに非常に多くの人々が家族との関係を断ち切って出家したこと(中には、非常に高学歴で優秀な人物も数多く出家していました)に関して、
「あれは麻原が特殊な超人的能力をもって多くの人びとを入信させたというより、むしろ、親子関係において不満を抱え、現在の家族関係以外のもっと安心できる存在を求めいていた人々の受け皿になっていたという側面が大きいのだ
というような説明をしていました。

それでは、その歪んだ親子の愛情関係とは具体的にどのようなものなのでしょうか?氏は、それは、「子供が同級生の友人たちの親と比較した時に抱く、自分の親に対する不満である」と述べています。

世の中の多くの子供は、厳しかったり、格好良くなかったり、厳しい躾をしてくる自分の親と、自分の友達や、あるいはTVドラマなどに出てくる格好良くて、優しい親と比較して親に失望します。

しかし、ほとんどの人は、大人になれば、「親にも色々な事情があって理想的な子育てが出来なかったのだ」とか、「親だって所詮は人間なのだから、上手くいかないこともあってイライラするときもあれば、問題を起こすこともある」ということを理解し、そして最終的には「うちの親も色々な問題を抱えながらも、なんとか自分を立派にここまで育ててくれた。だからそのことに素直に感謝しよう」という気持ちになることが多いのです。

ですが、あまりにもひどい虐待を受けたり、あるいは情緒的に成熟しきれなかった人の中には、大人になっても、この「誰々の親よりも自分の親はダメな親だった、だから私は親のことを愛せません」という人が一定数存在します。おそらくは、このような大人として成熟しきれなかった、もっと簡単に言えば、子供っぽい価値観の持ち主が自分の理想の親の代理を求めて麻原のもとに集まったという側面がオウムには存在するのでしょう。実際に上祐氏も、自分もそのような親との葛藤を抱えていた結果として麻原に師事したということを認めています。

あなたも囚われていないか、「条件付きの愛情」に

このような歪んだ関係は、必ずしも子供から親に対する感情に限りません。現在では、子供が自分の親を、他人の親と比較するように、親も子供を他人の子供と比較します。多くの子供は、小さい頃から、散々に「隣の○○ちゃんはもっと勉強できるのに」とか「クラスメートの××君はサッカー部のエースなんだって?」あるいは、ある程度の年齢になっても「あんたの中学校の時の友達の△△君は、東大に入って、□□社に入ったんだって?凄いねぇ!!それに比べてあんたときたら」と延々聞かされるわけです。このように、うんざりするようなセリフを子供時代から延々聞かされてきた子供が親に対して、「自分によって唯一かけがえのない親であり、だからこそ自分にとっては最も尊敬すべき親なのだ」という感情を抱くことは難しいですし、おそらくはこのような話を延々聞かされて育った子供の多くは、大人になって自分が親になったときには、同じように自分の子供に無私の愛を捧げることは困難で、他人の子供と絶えず比較することになるでしょう。

このような愛情関係を、上祐氏は「条件付きの愛」と呼んでいます。条件付き、つまり「他人の子供と比較して、自分の子供が優れていれば愛す」というカタチの愛です。このような愛情関係においては、子供は親に対して信頼感も安心感も抱けません、なにしろ、自分自身は絶えず他者との優位性を確保しない限り、親からの愛を失ってしまうかもしれないという危機感を抱えているのですから。

となると、現在の日本は、父親への敬意も失い、母親との愛情関係も信頼関係も失ってしまっているのです。このような状況において、人々が何か絶対的な安心感を得たいと願い、カリスマ的な指導者を求めるのはある種の必然であるように思えます。なにも、私は、今すぐ日本にイスラム過激派のような宗教的テロ組織が生まれてくるとか、ナチス自時代のドイツのような国家に変貌するといった過激な予言をするつもりはありませんが、少なくともそのような危険な指導者や全体主義を生み出す精神的土壌が現在の日本には用意つつあるという点は必ず自覚すべきであると思います。

→ 次のページ: 中野剛志氏の指摘する「幼稚な、または歪んだ愛国心」

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西部邁

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