『日本式正道論』第四章 儒道

第四節 古学派・朱子学

 古学派とは、朱子学を批判し、古代経書によって孔子・孟子の学問に帰ろうとした学派を言います。
 古学派の呼称は、井上哲治郎(1855~1944)によります。井上は山鹿素行・伊藤仁斎・荻生徂徠の三名をして、古学派の代表としました。貝原益軒は朱子学派と見なされますが、井上哲治郎は、白石が『大疑録』によって朱子学的立場に疑義を呈したことをもって古学派に数え入れています。

第一項 貝原益軒

 貝原益軒(1630~1714)は、江戸前期の儒学者です。薬学を学び、朱子学を奉じました。教育・歴史・経済の面にも功績があります。
 『大疑録』には、〈蓋し遠きに行くは、必ず邇きよりし、高きに登るは、必ず卑きおりするが如し。これ序に循ひて道に漸進するなり〉とあります。思うに遠方に行く者はかならず身近から踏み出し、高山に登る者はかならず低地から踏み出すようなもので、これが順序どおりに一歩一歩道へと進むことだというのです。
 道そのものについては、〈故に渾沌の時を以て、これを名けて太極と謂ひ、流行の時を以て、これを名けて道と謂ふ。太極と道とは、その実一なり。道は則ち太極の流行する所、太極は則ち一気の未だ流行せざるの尊号にして、二あるにあらざるなり。蓋し二気の流行の、条理ありて乱れず、常にして正しきものは、これを名けて道となす〉とあります。根源の気である太極が、条理によって乱れず正しく流れ行くのが道だとされています。
 『慎思録』では道について、〈道は天地の主宰、陰陽の綱紀、万物の根柢、人身の徳行なり〉とあります。道は天地を司る全ての根源であり、人間の徳でもあるのです。そこにおいて、〈道なるものは天地を主宰し陰陽を総摂して万物を化生する所以のものなり。その流行を以てこれを道といひ、その気に主となりて条貫あるを以てこれを理といふ。その実、道と理とは一なり〉と語られています。万物を生じさせて流れ行くことが道であり、その筋が通っていることが理なのだというのです。ですから、道と理とは一つなのだとされています。
 『五常訓』では、〈道ヲ信ズル志ハ、専一ニシテ、アツカルベシ〉と説かれています。
 『大和俗訓』には、〈天地の御心にしたがふを以て道とす。天地の御心にしたがふとは、我に天地より生れつきたる仁愛の徳をうしなはずして、天地の生める所の人倫をあつくあはれみうやまふをいふ。是れ乃ち人の行ふべき所にして、人の道なり〉とあります。天地の心に従うのが道であり、それは仁愛の人倫である人の道だというのです。道の学び方については、〈博く学ぶの道は、見ると聞くとの二をつとむ。聖賢の書をよみ、人に道をききて、古今を考へて道理を求むるなり〉とあります。書を読み人に聞き、古今を考えることで道理を求めるというのです。
 そこでは、〈道理はわが一心にそなはり、その用は萬物の上にあるなれば、まづわが一心の道理をきはめ、次には萬事につきてひろき道理をもとめて、わが心中に自得すべし〉と考えられています。自分の心に道理を得、万物の道理に広げていって自身のものとすべきだということです。ですから、〈道心とは、仁義禮智の本性よりおこる善心なり〉と語られているのです。このことから、〈恩を報ふこと、人道の大節なり。禽獣は恩をしらず、恩をしるを以て人とす。恩をしらざるは、禽獣にひとし。是れ禽獣とわかる所なり〉ということになります。恩を知るから人間なのだと考えられています。だからこそ、〈人の見になすわざ、何事にも道あらずといふことなし〉と語られているのです。
 また、〈心には、古の道を守り行ひ、身の作法は今の世の風俗にそむくべからず。今の世に生れ、古の法にかかはりて、必ず行はんとするはひがことなり。道に害あり。古法の内、當世の時宜にそむくべからず。又、當世の風俗にながれて、古の道にそむくは甚だわるし。是れ道に志なきなり。道は五常五倫といふ。法は禮なり。作法をいふ〉とあります。心には古の道を守りますが、今の世の風習にも従うべきだとされています。それは時宜に適うようにすべきということであり、時代に迎合して良いと言うことではありません。今の世のあり方に合わせるとともに、正しいことは譲れないということです。ですから、〈人つねにわが身をかへりみて、わが身に道を求むべし〉と語られているのです。

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西部邁

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