TPP協定署名間近の危機感が足りない日本
- 2016/1/7
- 国際, 経済
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2015年10月のアトランタ会合を振り返る
「政府が大筋合意したと言うのはデマだ」と信じている人に、大筋合意どころか、もう合意したんですよ、もうすぐ署名しようとしていますよ、と伝えると、一様に驚いて、自分の周りの人は皆同じようにまだ騒げば交渉から離脱してくれるかもと考えているからもっと宣伝してほしいと言われるので、記録も兼ねて2015年10月5日のことを書いておくことにします。
まずは10月5日に速報として出されたインサイド・US・トレードの短い記事をご紹介します。
(速報)TPP参加国は最終合意に達した、基本合意ではなく(複数の情報筋)(仮訳)
2015年10月5日
複数の情報筋によると、TPP協定に参加している12か国は5日間に及ぶハイレベル協議の後、単なる基本合意ではなく最終合意に達した。彼らは月曜の午前中(10月5日)、合意を発表することが予想されている。
この書きぶりから分かるのは、10月4日の時点では「基本合意」が噂されていたが、5日になって基本合意ではなく最終合意がなされたということです。(本当の意味での最終合意は署名したときになりますが、詳細については別稿に譲ります。)
実際、10月1日までとされていた閣僚会合が一日、また一日と延長され、タイムリミットとされていた10月4日の閣僚会見の開始時間が午後4時、6時、8時と延期されて、ついにはペンディングになり、元々閣僚会見を予定してあった会場も深夜0時までしか借りていなかったため、会場の片づけをしている姿が報道されました。以前ご紹介したように、現地でひたすら待ち続けるメディアの方々からは、やらないなら最初から呼ばないでくれればいいのにといった不満もちらほら聞こえてくるほどでした。
日本だけが大筋合意、又はそれ以下と伝わった経緯
これまでにも何度か紹介してきましたが、日本政府は他のTPP交渉参加国と比較して、交渉内容に関する公開情報を多く出してきました。幸か不幸か日本のメディアは政府と一体のところがありますので、時差の関係と朝刊に間に合う時間に合わせた情報提供の都合で、交渉会合期間中は特に情報が出てくるのが早いのです。そのため、現場にいなければ分からないことも多いのですが、交渉会場付近で詰めているTPPウォッチャーたちにとっては日本からの情報も貴重です。筆者にとっても現地入りしていたマウイ会合期間中は、Facebookグループ「TPPって何?新館」に次々と投稿される日本発の情報はとてもありがたいものでした。
筆者はアトランタ会合中には日本にいて、現地に詰めていた参加国のNGOやメディア、その他複数の情報筋(笑)とSNSやメール、電話などで密に連絡を取り、お互いの情報を照らし合わせて情勢分析をしていました。当時の記録を見ても、現地時間の4日午前中まではせいぜい基本合意だろう、下手をすると閣僚会見ができないこともあり得るのでは、という見方が優勢でした。首席交渉官レベルの話し合いが5日午前7時30分までに着かなければTPPはそのまま漂流するかもしれないという報道もありました。
一方で、日本時間の4日深夜に懸案のバイオ製剤データが米豪間で合意されたり、メキシコの外相を始め、交渉関係者側から今回で合意されるだろうという発言も出てきたり、着々と課題が解決されていく勢いから、今回は決まってしまうかもしれない、という危機感も強くなっていました。そして現地時間4日午後、マウイ会合で最初に自動車の原産地規則が原因で交渉が決裂したと教えてくれた友人が「Final deal(最終合意)」ではなく「Deal in Principle(基本合意)」となりそうだというメッセージをくれました。日本からアトランタ入りしていた人々の多くは、この時点で既にアトランタを離れたり、丁度移動中だったりした人ばかりで、肝心な部分の情報収集ができない状況にあったようです。
ついに大筋合意かと身構えていたところ、日本政府から現地入りした邦人用連絡先メール宛に、現地時間5日午前11時開始のプレス説明会のお知らせが届きました。事実上の締め切り発表でしたが、その時には今回できまりそうだという声と、そうは言っても「Agreement in principle」だという声の二つがありましたが、いずれにしても日本政府のプレス説明会では詳細な資料が出されるようだという情報が入っていました。詳細な資料が出るという事は、決まってしまうということですから、そこでモードを切り替えなければならないことは明白でした。
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