報道されているように「排ガス検査されていることを検知して、その時だけ排ガス除去装置を作動出せるソフトウェア」と書いてしまえば明らかに不正行為ですが、「馬力が必要な時には馬力優先モード、一般的な市街地走行パターンでは燃費優先モードでエンジンを動かすソフトウェア」であれば何の問題もないわけで、そんな努力を重ねているうちに、どこかで「通常走行中には、排ガス除去装置を停止する」という踏み越えてはいけない線を超えてしまったのだと思います。
実際、2011年にはいすゞ自動車も同じようなソフトウェアを組み込んでいたことを東京都に指摘されて警告を受けており(参照:最新排出ガス規制適合車における、排出ガス低減性能の「無効化機能」について)、さらにそこで引用されている資料(参照:「無効化機能(Defeat Device)」について)を読むと、1998年にはフォード社が、1999年にはキャタピラ社が全く同じ問題で罰金を払わされており、程度の差はあれどの会社も似たようなことをしていたことは否定できないと思います。
ちなみに、この問題は、West Virginia University の研究者が、ディーゼル車が実際の走行でどのくらい排ガスを出すのかを測定した結果を論文として発表し、そこに明らかな「排ガス低減装置の無効化」が行なわれている証拠が存在したからです(参照:In-Use Emissions Testing of Light-Duty Diesel Vehicles in the United States)。
エンジニアが良かれと思ってやったことが一線を越してしまい、それが会社の存続の危機まで招いてしまったという、極端な例です。
『週刊 Life is beautiful』より一部抜粋
著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。
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