平和主義をアピール
Q:では、第3の意味とは?
小川:「軍事力を誇示する一方で、習近平は中国人民解放軍(現兵力は約230万人)の30万人の兵力削減をぶち上げ、中国が平和的な発展を目指していることを国内外に印象づけようとしました」
「演説で習近平は、『抗日戦争の勝利で日本軍国主義の企てを徹底的に粉砕し、大国としての中国の地位を再び打ち立てた』と今日までの歴史を誇りつつ、『中国は永遠に覇権を唱えず、拡張を図らず、自らが経験した悲惨な経験をほかの民族に押しつけることはしない』と、覇権主義や領土拡張の意図が一切ないこと、平和主義を貫くことを強調しました。そして、中国軍の兵力を30万人削減すると明言し、さらに国際社会は『国連憲章を核心とする国際秩序を守っていくべきだ』とも述べています」
「30万人は不要な部隊や後方部隊の削減が中心のようです。中国は、これまでも兵器の近代化、軍の組織改革、兵力削減を進めてきており、とくに目新しい話というわけではありません。しかし、わかりやすく具体的な『30万人削減』は、平和重視の姿勢を一言で強調するにはうまい言い方です。なにしろ、自衛隊全体(24万人)よりも大きい兵力を一気に減らすというのですから」
「といっても、専門家は額面どおりの軍縮とは受け止めません。いくら国際社会が『30万人も削減するのか』と驚き、好意的に見ても、専門的には同時に軍の近代化や効率化を進めており、軍事力が弱まったことには全然ならないと、かえって警戒しているほどです」
「ここまで見たように、メッセージ性の強い今回の軍事パレードは、世論戦(大衆や国際社会の世論を喚起し支持を築く)や心理戦(敵側の大衆や軍の士気を殺ぐ)の側面が強いといえます。法律戦とは関係が薄いでしょうが、この意味で、軍事パレードは中国三戦の集大成的な国家イベントだったともいえると思います」
「考えてみれば、軍事パレードに登場した兵器の解説など、兵器カタログを見れば誰でもできます。中国は、ミサイル1本1本に記号番号を大書し、形から見てこれかと調べる手間を省いてくれていますし、中国中央電視台がそれぞれどんな兵器かを解説しています。ですから、軍事パレードの全体を見て、その意味を伝えることこそメディアの役割なのですが、それをやろうとしないメディアの姿勢に、私は大きな疑問を感じています」(聞き手と構成・坂本 衛)
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『NEWSを疑え!』第429号より一部抜粋
著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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