対米軍事力の進捗を強調
Q:続いて、第2の意味を解説してください。
小川:「中国人民解放軍の『接近阻止・領域拒否』(Anti-Access/Area Denial=A2/AD)戦略は、2009年にアメリカ国防総省が議会に提出した中国の軍事力に関する年次報告書で提唱した概念です。アメリカ議会が2011年に発表した年次報告書では『領域支配軍事戦略』(Area Control Military Strategy)という言葉が出てきますが、同じ意味です」
「A2/ADは、中国は(1)第一列島線(九州─沖縄─台湾─フィリピン─ボルネオ島に至るライン)より内側の近海では、米空母・原潜などが大陸に接近することを阻止し、制海権を握るために必要な軍事力を整備し、対応する作戦も立案する。(2)第二列島線(伊豆諸島─小笠原諸島─グアム─パラオ─パプアニューギニアに至るライン)より内側の領域(遠海)では、米軍が自由に行動することを拒否するのに必要な軍事力を整備し、対応する作戦も立てる──という中国軍の考え方や戦略のことです」
「今回の軍事パレードで40種・500両以上の車両や兵器と20種類・200機以上の航空機が登場したなかに、DF-21Dという対艦弾道ミサイルがありました。これは射程1,500キロで『空母キラー』と呼ばれています。同じ21シリーズのA~Cと異なり、Dだけがマッハ12で落下しながら移動目標を追尾でき、A2に使うことを想定して、米空母機動部隊が大陸に近づけばお見舞いするぞ、と誇示しています(接近阻止)」
「中国は同時にDF-21Dの数も誇示しています。米空母はイージス艦9~12隻という、米国でも最も濃密なミサイル防衛システムで守られていますが、撃ち込まれた多数の対艦ミサイルのほとんどを撃墜できても、撃ち漏らした1発で空母はお終いだ、と脅しているわけです。DF-15、DF-16は福建省などに1,500~1,600発ほどあって、台湾と日本の南西諸島を射程に入れています。これもA2用です」
「DF-26は射程4,000キロで、これはADに使い、グアムの米軍基地まで届くからアメリカの自由にはさせないぞ、というわけです(領域拒否)。そのほか、DF-5Bが射程1万2,000~5,000キロでメガトン級のアメリカ東海岸に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)で、射程7,200~1万2,000キロのDF-31も米本土を狙うことができます」
「A2/ADを実現するためには、ミサイル以外の航空機も使います。軍事パレードで上空を飛んだH6爆撃機は、行動半径3,500キロで、空中発射型の巡航ミサイル(射程2000キロ以上)を搭載できます。もう1つ注目すべきは空母艦載機J-15で、ロシア製のスホイ33のパクリとされる戦闘機ですが、空母に着艦するときワイヤーに引っかけて停める着艦フックをわざわざ降ろした状態で飛びました。いずれも近海で運用すればA2に、爆撃機や空母をやや遠くまで進出させればADに使えます」
「就役している中国空母はソ連/ロシア海軍が途中で建造を放棄した『遼寧』1隻だけですが、上海の造船所では2~4隻の国産空母を建造中とされ、中国軍は陸上の飛行場に空母と同じジャンプ式の滑走路を造って発着艦訓練を繰り返しています。空母艦載機J-15の編隊飛行は、国産空母が就役すればただちに航空戦力を発揮できる準備が整っていることを示したという意味で、注目されるのです」
「こうした中国の軍事力誇示に対し、アメリカは『気にしていない』という受け止め方を見せました。アメリカは、当メルマガでも繰り返しお伝えしたネットワーク・セントリック・ウォーフェア(NCW)をはじめ、システム分野で、中国に依然として大きな差をつけていると考えているからです。中国の軍部も『米国とは20年の差がある』と現状を認めていますが、それでもA2/ADについて軍事力を着実に高めていることを内外に見せつける効果は小さくないでしょう」
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