わざとイスラム国に負ける米軍、そして中東はイスラエルの思惑通りとなる

中東ではイラクとシリアだけでなく、リビアやアフガニスタン、イエメンなどでもISISに忠誠を誓うイスラム過激派テロ組織が活動している。シリアでアサド政権が消滅してISISが勝つと、ISISの影響力が中東全域で強くなり、イスラエルが好む中東イスラム世界の長期的な内戦化・弱体化が起こる。そうなれば、たとえ米国が中東から撤退しても、イスラエルは何とかやっていける。

イスラエルは、ゴラン高原越しに、シリアのアルカイダ(ヌスラ戦線)を支援している。ヌスラ戦線の指導者(Abu Mohammad al-Golani)は最近、米欧のテレビのインタビューに出演するなど、米欧に自分たちをテロリストでなく正当なシリア反政府勢力として認めさせようとすることに力を入れている。ヌスラ戦線は、アサド政権が倒れた後のシリアの政権をとって国際承認されることをめざしているのだろう(その場合ISISとヌスラ戦線が裏で談合する)。これはおそらくイスラエルの差し金だ。

イスラエルは最近、米国の中東撤退後を見据えた戦略の1つとしてサウジアラビアに接近している。サウジが米国でなくイスラエルから兵器を買うよう仕向け、イスラエルの国庫を潤すとともに、スンニ派の盟主サウジとシーア派の盟主イランが恒久対立してイスラム世界が自滅する構図を作るのが狙いだ。イスラエルは、サウジのイエメン侵攻時に戦闘機を派遣したと言われているし、フーシ派に占拠されたイエメンのサウジ大使館にイスラエルの武器が貯蔵されていたことも暴露された。イスラエルは、自国の迎撃ミサイル(Iron Dome)をサウジに売り込んだりもしている。

軍産イスラエルは、ISISと戦うふりをして支援したりわざと負けたりすることで、ISISがアサドを倒してシリアを恒久内戦に陥れ、イスラエルの仇敵であるレバノンのヒズボラを弱体化し、イラクで東進するISISがイランに戦いを挑む構図を作りたい。イラクにおいて、ISISが首都バグダッドやナジャフなど聖地を攻撃したり、対イラン国境に迫った場合、イランは正規軍を越境出動させてISISと戦うと表明している。シリアでは、イランが制裁解除後の自国の資金増を見越し、資金難のシリアを助けようと与信枠を増やしているが、間に合うかどうかわからない。ISISとイランとの戦いは勝敗の分岐点にいる。

現時点で、ISISを倒せるのはイランしかいない。米国やトルコはISISの隠れた味方で、EUもその陣営だ。ロシアや中国はイランやシリアに加勢するが、イランが弱体化すると終わりだ。イランが負けてISISが台頭すると、中東がこの先ずっと混乱する。米単独覇権崩壊後の今後の世界は多極型で自分たちのものだと考えているロシアや中国は、ISISの台頭を好まず、イランを勝たせようとする策を強めている。ロシアはイランの軍事力を強化してやっている。

イランは、中露と中央アジア諸国が作るゆるやかな安保体制「上海協力機構」に加盟したがっている。上海機構に入れば、イランが中露に守られつつ米イスラエルに対抗できる傾向が増す。7月9日にロシアのウラル南部の町ウファで開催予定の今年の上海機構のサミットに、イランが高官を派遣することが決まった。早ければ、その時にイランの上海機構への加盟が話し合われる。ISISがアサドを倒して中東をイスラエル好みにさらに混乱させるのか、中露がイランを支援強化してアサドを守るのか、世界の覇権構造の転換と相まって、中東は分岐点にいる。

イラン国内では「制裁解除後に入ってくる巨額資金を、シリアやヒズボラの支援に回さず、国民生活の向上にあててくれ」という主張が出ている。対照的に、イランの軍部は、シリアやヒズボラを支援するため軍事費の3割増を求めている。イラン国内の論争も激化している。

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西部邁

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