5月18日、米国の政府監視団体(Judicial Watch)が、2012年に国防総省の諜報部DIAが作成した秘密報告書を、裁判を通じて入手したとして発表した。そこには、米当局が12年の段階でISISの台頭を予測し、ISISは米国の敵でなく、アサド政権やイランなど米国の敵と戦ってくれる支援すべき資産だと分析していたことが書かれていた。14年にISISがモスルを陥落して突然台頭したとき、米政府は驚愕してみせたが、それは演技だったことが判明した。
米政府は、ラマディの大敗北に、超然としている。まるで、意図的に大事な軍事情報の収集を行わず、わざと負けたかのようだ。米政府は、自分たちのせいでISISに負けてイラクが危険になっているのに「米国はイラクの安全に責任を持たない」と表明している。イラク政府は、自国の安全を守るためのISISとの戦いで、米国に頼れなくなっている。米国に頼れないとなると、隣国イランに頼るしかない。
ラマディ陥落後、ISISがバグダッドに侵攻するのを防ぐため、ラマディとバグダッドの間にあるアンバール州のハッバーニヤの町に、3000人のシーア派民兵団が急いで展開した。シーア派民兵団は、イランから軍司令官が派遣され、イランの傘下で訓練されており、イラク政府軍より強い。シーア派民兵団を、スンニ派の地域であるアンバール州に入れると、シーアとスンニの抗争を扇動しかねないので、イラクとイランの政府は、シーア派民兵をラマディなどアンバール州の戦闘に参加させていなかった。イラク軍を指揮する米軍と、シーア民兵を指揮するイラン軍(革命防衛隊)が敵どうしということもある。しかし米軍は今回、シーア民兵のアンバール州への展開を認めた。
米軍がISISと戦うふりをして支援し、イラク軍を助けるふりをして妨害する以前からの状況が続くほど、イラク政府は米国に不信感を抱き、本気でISISと戦うイランを頼る傾向を強める。それがオバマ政権の意図であると、私は以前から分析してきた。
イラク政府が米国に頼るのをあきらめてイランに頼る傾向を強めたとみるや、米国はイラク政府に対して新たな意地悪をしてきた。米国には、武器支援するのは各国の政府だけで、政府を持たない武装勢力を支援してはならないとの法律がある。この法律のため、米国はこれまで、シーア派、スンニ派、クルド人の3派にわかれているイラクのうち、シーア派主導のイラク政府だけしか軍事支援できず、米国からスンニ派やクルド人への軍事支援は、いったんイラク政府に支援を渡し、それを分配してもらう方式にしていた。
しかし3派はそれぞれ仲が悪いので、イラク政府は米国からもらった武器や資金をスンニ派やクルド人に分配したがらない。そこで米議会は4月末から、イラクをシーア、スンニ、クルドの3つの国に見立て、それぞれに直接軍事支援できるようにすることを検討し始めた。これは、イスラエルが以前から熱望していた「3分割によるイラク弱体化・内戦化」の策だ。
これにはイラク政府やシーア派民兵団が猛反発し、米国が3分割を撤回しないなら、シーア派民兵団がイランとの結びつきを強め、政府軍に取って代わることも辞さないと言い出した。オバマ政権は、イスラエルの言いなりになることで、イスラエルの仇敵であるイランの傘下にイラクを押しやっている。米国の上層部は、イランを敵視する軍産イスラエル複合体と、イランを敵視するふりをして強化してやることで軍産イスラエルを無力化したいオバマとの暗闘が続いている。
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