ISDSについては、今年2月に上院議員のエリザベス・ウォーレンのワシントン・ポスト紙への投稿が話題になりました。
●The Trans-Pacific Partnership clause everyone should oppose
内容は、巨大企業が政府を相手に巨額の賠償金を、それも国内法ではなく国際仲裁機関を通じて提訴できる仕組みは、主権国家への重大な侵害となるというもの。もし企業が不十分な法システムを持つ国に投資したいなら、ISDSではなく保険で対応すべきだとしています。
ウォーレンは、先進国相手の貿易協定にISDSを組み込んだ場合、アメリカ政府が訴えられる事案が多発すると警告を発しています。日本では、アメリカ企業による濫訴が懸念されていますが、アメリカでは日豪の大企業からの提訴を恐れているというのは、興味深い対照です。
クルーグマンは、ウォーレンの見方に賛同して「TPPはアメリカ政府に政策の変更や大きな調整を強いるかもしれない」と述べています。これは杞憂ではありません。最近、カナダの蔵相がNAFTA協定違反だとしてボルガー・ルールを槍玉に挙げました。日本ではあまり報じられていませんが、アメリカでは大きな問題になっているようです。
●ボルカールールでカナダ国債の免除要請、貿易協定に違反=財務相
TPPも、巨大企業に法外な権限を与えることで、ウォール街改革を遅らせたり骨抜きにする可能性があります。この懸念は、アメリカにとってだけでなく日本にとっても重要と言えるでしょう。外国銀行によって提訴される可能性があると、金融規制を強化しようとしても当局が二の足を踏む可能性があるからです。
同様の指摘は他にも多数あることを考えると、やはり知的財産とISDSは相当に問題含みです。日本では関税、特に農業関税の撤廃ばかりに注目が集まりますが、本当の危険は関税以外の分野にあると言わざるを得ません。
米国版TPP論争は、下院での決議が近づくにつれて激しさを増すものと思われます。日本はどうでしょうか。関税面では、日本は譲歩を重ねまくっているようですし、知的財産やISDSで激しく抵抗したという形跡もありません。世論の関心も、数年前までの盛り上がりは何だったのかというくらい、失われているように見えます。
TPPは、本当に日本の長期的国益に適うものなのか。新しい情報を踏まえて、もう一度、トータルな検証が必要です。
柴山桂太@京都大学准教授
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