テロリズムを「劇場化」するメディア報道

国境越えるメディア戦略

 それに対して、インターネットとソーシャル・メディアの時代である現代では、テロリストは自分たちのホームページを開設して情報発信したり、YouTubeやFacebook、Twitterなどのソーシャル・メディア上で自分たちのメッセージや動画を簡単に掲載したりすることができる。

 イスラム国が日本人二人を人質にとったメッセージが掲載されたのもネット上であり、ソーシャル・メディア上であった。

 ネットとソーシャル・メディアの登場により、テロリストと一般市民は直接がることができ、その間にテレビや新聞、雑誌といったマスメディアを媒介する必要がなくなったのである。これにより従来のマスメディアは、テロリストによって直接利用され、責任を問われる事態を免れたが、その反面、ネットやソーシャル・メディアに存在するテロリストのメッセージを葛藤せずにそのままコンテンツとして利用し、安易に報道するようになった。

 テロリストがネットやソーシャル・メディアに掲載したものをマスメディアがそのまま報道することにより、そのメッセージをより広範囲に拡散することに貢献しているのである。

 そういう意味では、現在のメディア環境においても、テロリストはソーシャル・メディアを使いながら、従来のマスメディアの報道を間接的に利用して自らの政治的主張を世界にアピールすることに成功している。

 イスラム国は、YouTubeやTwitterなどのソーシャル・メディアを活用して、自分たちの政治的メッセージを世界に宣伝することに成功しているだけでなく、世界からカンパを集めることにより、資金として活用し、世界から若者をリクルートすることに成功している。

 欧米諸国からも多くの若者を集め、そのなかにはテレビ局や新聞社などでジャーナリスト経験を持つものがいて、彼らがイスラム国の広報局に所属して人質の動画を編集し、ネット上でメッセージを発信している。

 イスラム国は、組織のなかにメディアを活用するためのプロパガンダ機関を持っているのである。このように、現代におけるテロリストは多様なメディアを利用する情報戦、プロパガンダ戦を展開し、自分たちで世界にメッセージを発信するメディア戦略とメディア・リテラシーを持っている。

 今回のイスラム国邦人人質事件でも、第一報以降、テレビや新聞、雑誌などにおいて連日、テロリズムに関する報道が大部分を占める集団的過熱報道(メディアスクラム)と呼ばれる現象が発生した。

事件は劇的に展開

 新聞では連日、一面記事、総合面、政治面、国際面、社会面で人質事件の報道が続き、テレビニュースでもトップニュースや特集コーナーを人質事件が飾った。こうしてイスラム国によるテロリズムは、オーディエンスが注目するキラーコンテンツとなった。

 イスラム国が提示した七十二時間という期限のなかで時間が刻々と過ぎるなか、人々はメディア報道に注目した。こうしてキラーコンテンツとなったテロリズムは、ジェンキンスが指摘したように劇場型犯罪として一般市民をオーディエンスとして巻き込み、劇的に展開する。

 この現象は戦後テレビの登場とともに発生したともいえるが、一九七二年のあさま山荘事件では連合赤軍による十日間の人質立てこもり事件で、最後の強行突入までの十時間がテレビで生中継され、平均視聴率五〇%超を記録した。

 九五年のオウム真理教による地下鉄サリン事件では、オウム真理教関連の報道番組や特別番組が多数編成され、その多くが高視聴率を記録している。

 また、二〇〇四年のイラク邦人人質事件では、三人の日本人がイラクの武装勢力サラヤ・アル・ムジャヒディンにより誘拐され、日本政府に対してイラクに派遣された自衛隊の撤退等を要求されたが、この時にも現在と同じような集団的過熱報道が発生した。

 当時、人質に対する同情論と自己責任論で世論が二分され、イラクに自衛隊を派遣した日本政府がテロの原因であるとするメディアや研究者、評論家からの政権批判にがったことは記憶に新しい。

 このイラク邦人人質事件におけるメディア報道と世論の反応は、今回のイスラム国邦人人質事件と非常によく似た傾向を示している。十一年前に発生したイラク邦人人質事件の反省は、今回のイスラム国邦人事件でのメディア報道においてどう活かされたのだろうか。

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西部邁

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