デフレ脱却すれば日本経済は復活するのか?
- 2013/10/30
- 経済
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通用しなくなったフィリップス曲線
フィリップス曲線は経済学においてインフレと失業率の関係を示したものであり、アルバン・ウィリアム・フィリップスが1958年の論文に発表しました。フィリップス曲線は「インフレ率が高くなれば失業率は低下し、インフレ率を抑制しようとすれば失業率が高くなる」ことを表した曲線です。
このフィリップス曲線を持ち出して、デフレ脱却論者は「とにかくデフレ脱却すれば失業率は下がる」と豪語しますが注意が必要です。
以下は世界各国のフィリップス曲線ですが、日本は綺麗なフィリップス曲線を描きますが、米国や英国、ドイツなどはフィリップス曲線を描いていません。海外の例を見る限り、決してインフレにすれば雇用問題が解決するとは言い切れないのです。
「しかし、日本はフィリップス曲線を示している。インフレ率を高めれば雇用問題は解決するのではないか?」と疑問に思われる方が多いと思います。しかし、日本のフィリップス曲線も注意して確認しなければなりません。日本の失業率とインフレ率の推移をご覧ください。
インフレ率が高く失業率が低かったのは「1960年代から1970年代前半」であり、インフレ率がマイナス状態(デフレ)で失業率が高いのは「2000年代」であることが分かります。「1960年代から1970年代前半の日本」と「2000年代の日本」では制度・関税率・生産性・海外からの影響度は大きく違います。
1960年代は多くの業界に需給調整規制(新規参入規制)があり、金融に関しては「護送船団方式」という行政指導もありました。また現在は多くの品目で関税率が無税である製造品も高い関税率が設定されていました。()は1961年の関税率ですが、乗用自動車(40%)、金属加工及び木工機械(15%)、機械(20%)、板ガラス(10~20%)、写真機(30%)、楽器(20%)、懐中時計(30~50%)、紡織機械(15%)その他さまざまな製造品の関税率は現在、無税に設定されています。
そして1番大きいのは1973年まではブレトンウッズ体制と呼ばれる固定相場制であったことでしょう。当時、日本円は1ドル360円で固定されていました。固定相場制という安定性によって企業は長期的視点に立った経営計画を立てることが出来ました。
しかし、現在は「聖域なき構造改革」によって大規模小売店舗法(旧大店法)廃止、卸市場法改正、割賦販売法改正、貨物自動車運送事業法改正、酒類販売業免許改正など多くの需給調整規制(新規参入規制)は撤廃され、多くの業界が激しい価格競争をしています。また「金融ビッグバン」の進行に伴い、行政指導は大幅に緩和されました。自由貿易の促進によって関税率は大きく引き下げられました。同時に中国など新興国が急速に工業化した結果、日本国内に安い外国の製造品が流入しています。もちろん現在は変動相場制です。為替相場は取引する人々の主観や相場に対する考え方で、変動を繰り返しています。通貨の変動が激しく、企業は長期的な視点に立った経営計画が立てにくい状態になっています。
かつては携帯電話やパソコンはなく、もちろんインターネットもない時代です。新幹線をはじめ鉄道のスピードも違います。自動車やトラックの性能も大きく違うでしょうし、当時は本州と四国をフェリーで渡っていましたが今では瀬戸大橋があり、本州と四国を電車や自動車で渡ることができます。技術革新やインフラ整備が企業の生産性を大幅に高めています。
1960年代から1970年代前半と2000年代は全く違う世界です。後述しますが日本企業の海外現地法人の売上高も1990年代以降上昇しており、産業空洞化も進んでいます。
この全く違う世界を「インフレ率と失業率だけで論じる」のは危険ではないでしょうか。その時代の制度・関税率・生産性・海外からの影響度を含めた経済議論を展開するべきです。
コメント
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>日本は綺麗なフィリップス曲線を描きますが、米国や英国、ドイツなどはフィリップス曲線を描いていません。海外の例を見る限り、決してインフレにすれば雇用問題が解決するとは言い切れないのです。
これは大間違いです。フィリップス曲線について、せめてWikipediaくらいの知識は完全に理解してから語るべきでしょう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97%E3%82%B9%E6%9B%B2%E7%B7%9A
>失業率に影響を与えるのは、主に、実現したインフレ率そのものではなく予想されたインフレとの乖離である。予想を上回ってインフレが進行した分が、失業率を低下させることになる。よって、実現したインフレ率と失業率のグラフにおいて、フィリップス曲線は期待インフレ率によって上下にシフトする。また、供給ショックなど、その他の要因によってもフィリップス曲線はシフトする[10]。たとえばオイルショックのような供給ショックは、失業率悪化と物価上昇を同時にもたらし、フィリップス曲線を右上方向へシフトさせる要因となる。
>フィリップス曲線上の動きと、フィリップス曲線のシフトとの区別は重要である。たとえば景気悪化局面においては、失業率の悪化とともにインフレ率の低下が起きるが、そのインフレ率の低下を受けて人々のインフレ期待も低下していくことになり、フィリップス曲線の下方シフトが発生する。その結果、実現したインフレ率と失業率の間には時計回りのスパイラルが描かれることになり[11][12]、この時計回りの動きの中で左下がりの部分が観察される。
失業とインフレのトレードオフがどのように観察されるのかを考えれば、曲線のシフト要因を考慮しなければならないのは当然のことであり、そしてフィリプス曲線の右下がりの形状(つまり失業とインフレのトレードオフ)は諸外国を含めて現在でも頑健に成り立っています。たとえば米国についての解説
http://krugman.blogs.nytimes.com/2012/04/08/unemployment-and-inflation/?_php=true&_type=blogs&_r=0
フィリプス曲線の導出に関する理論的な背景を考えること無く、勝手にある一つの不動な曲線があるはずだ、それが観察できなければ右下がりのフィリプス曲線は崩れたのだ、と言い出すのはあまりに勉強不足に過ぎます。
スティグリッツ「たとえば中国では、インフレ率は8%を上回っていた。ベトナムでは23%に達した。これらの国々のインフレは大部分が輸入品によってもたらされたものだ。
金利を引き上げても、穀物や燃料の国際価格はあまり変動しないだろう。
仮に世界の食料とエネルギーの価格が年率20%で上昇したら、全体的なインフレ率を2%に収めるためには、賃金とほかの物価を暴落させる必要がある。その場合、ほぼまちがいなく市場経済の減速と高失業率が伴うだろう。この治療法は病そのものよりたちが悪い。
ゆるやかなインフレ率の上昇は、それがもし持続するように見えたら、金融を引き締めることでたやすく反転せすることができる。要するに、好調な雇用と力強い成長を維持する最良の道筋がインフレに焦点を当てることだというのは、まったくの誤りなのだ。
インフレに焦点を当てることで、はるかに重要な物事から注意がそれてしまいかねない」
こちらの日本語に訳されたものの方が分かりやすいでしょうか。
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:xpvk_MrDpQoJ:archive.today/Z2hl+&cd=1&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
フィリップス曲線のシフトは非常に古くから知れ渡った話題で、インフレ率と失業率を単純にプロットして右下がりで無くなったから、失業とインフレのトレードオフが無くなった、曲線の形状が右下がりで無くなった、ということが言えないのは、経済企画庁(現在の内閣府)の1986年(!)の年次世界経済報告でも触れられています。つまり、あなたはそんな昔から知られているフィリプス曲線についての基礎的な知識さえ無く、さらに無いにもかかわらずフィリプス曲線についてしたり顔で語っているわけです。独学にしてももう少し、まもとな教科書を使って勉強をした方がいいと思われます。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/sekaikeizaiwp/wp-we86/wp-we86-s00i1.html
にある
http://www5.cao.go.jp/keizai3/sekaikeizaiwp/wp-we86/wp-we86-s0003.html