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1月3日のTBSの時事放談で自民党石破茂地方創生担当大臣は「財政規律が緩んでしまったらハイパーインフレしかない」と語った。これは計量経済学を理解できない人間ならではの発想であり、完全に間違っている。そもそも「財政規律が緩む」ということの定義は何だろう。財政赤字が膨らむということなら、もう20年以上財政規律は緩みっぱなしだから、とっくにハイパーインフレになってなければならない。例えば2014年度には歳出に占める税収の割合は54.6%であったが、2013年度は46.9%だったから、2013年度のほうが財政規律は緩んでいた。しかし、ハイパーインフレどころか、デフレ脱却すらできなかった。2009年度にはこの割合はもっと低く、僅か38.4%なのだが、デフレ脱却ができなかったのは同じだ。つまり、財政規律を緩めてもハイパーインフレどころかデフレ脱却すらできない。
我々はもっと定量的に議論をすべきだ。つまり、何兆円だけ財政規律を緩めれば何%だけ物価を押し上げるかということだ。こういう議論をしない限り、ハイパーインフレどころか、デフレ脱却すらできない。是非知っておいて欲しいのだが、内閣府はそのような計算を行ってホームページで公表している。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome.html
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/ef2rrrr-summary.pdf
例えば5兆円だけ公共投資を増やした場合の様々な影響を調べている。GDPも国民の所得も増え失業率も減るから良いことだらけだ。国の借金は増えるがGDPも増えるので借金のGDP比は減る。さて物価はどうなるかと言えば0.07%だけ増える。ハイパーインフレどころか、たった0.07%のインフレ率の上昇だ。可処分所得が増えるということは、弱者も強者も豊かになるということだ。ただし、デフレ脱却のためには、5兆円よりずっと大規模な財政出動が必要ということだ。
石破さんだけでなく、すべての政治家に是非知っていただきたい。特定の財政政策を行った場合の影響は計算できるし、景気対策を行う時は必ず、その経済効果を計算して政府は発表している。つまり、どのくらい財政規律をゆるめれば、2%のインフレ目標に到達できるか、2020年度にGDPが600兆円に達するか、実質2%、名目3%の成長率が達成可能か等々、すべて計算可能なのだ。
こういった計量モデルから計算される数値の意味を理解することが、日本経済復活の第一歩になる。池田内閣の所得倍増計画が成功したのも、経済学者の助言に従った結果だった。ハイパーインフレを恐れ緊縮財政を続けてしまい、逆にデフレ経済から20年近く抜けられない日本の現状は笑い話にしかならない。
政治家は一見計量経済学を理解しているかのような発言をする。彼らは、このままだと2020年の基礎的財政収支は6.2兆円の赤字になるという。しかし、この数字を出した内閣府計量分析室に電話して聞いてみると、内情を話してくれる。担当者は政治家が圧力を掛けて、このような数字が出るようなモデルを作らせたのだと言う。言い換えればこれは予測でなく、政治家の願望だ。いつも実現しない政治家の願望などどうでもよい。このモデルの別な面、つまり財政規律を緩めてもハーパーインフレにはならないことだけはしっかり理解していただきたい。
小野盛司
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