※この記事は月刊WiLL 2014年12月号に掲載されています。他の記事も読むにはコチラ
朝日、反転攻勢に出る
朝日新聞は十月七日、〈慰安婦報道、元記者の家族も攻撃 ネットに子の写真や実名〉と題する記事を掲載、植村氏が特別講師を務めていた北海道の北星学園大学にも脅迫が及んでいることを受け、〈学者や弁護士、ジャーナリストらが六日、同大を支援する「負けるな北星!の会」を結成〉したことを報じた。
同日の天声人語も、この会の結成について触れている。
(北星学園)大学を応援する会が、きのう発足した。「負けるな北星!の会」という。作家の池澤夏樹さんや森村誠一さん、政治学者の山口二郎さん、思想家の内田樹さんらが呼びかけた。元自民党幹事長の野中広務さんらも賛同人に名を連ねる
これを読んで、私は椅子から転げ落ちそうになった。これは朝日お得意の「市民が動き出した」の所作ではないか。
朝日は慰安婦検証記事以降、メディアが続けてきた「朝日バッシング」に対し、言論弾圧の被害者を装うことで「全面反転攻勢」を仕掛けようとしているのである。
この「言論弾圧」の発端はご存知のとおりだ。簡単に振り返っておこう。
今年三月、植村隆元朝日新聞記者が神戸松蔭女子学院大学教授に就任予定であったが、直前になって大学側から雇用契約を解消された。
非常勤講師として働いていた北海道の北星学園大学で、八月の朝日新聞「従軍慰安婦検証記事」のあと、「植村を辞めさせなければ『天誅』として学生に危害を加える」との脅迫文が届いた。
また、元朝日新聞取締役の清田治史氏も退職後、帝塚山学院大学教授として職を得ていたが、これも今年九月十三日午前、同大学に「(教授を)辞めさせなければ学生に痛い目に遭ってもらう。釘を入れたガス爆弾を爆発させる」という脅迫文が届き、清田氏はその日のうちに大学を退職した。
清田氏は八二年、吉田清治なる稀代の詐話師が行った「済州島で一週間に二百人の若い朝鮮人女性を狩りだした」という虚偽の講演内容を記事にした責任者だ。
誤解のないよう強調しておくが、「脅迫」は最低の行為である。だが、日頃「ジャーナリスト宣言」なるものを高らかに謳い、「いかなる脅迫にも屈してはならない」とあれほど言ってきた朝日新聞出身者が、脅迫文が届くやいなや辞職するとは情けない限りである。
しかも伝わってくる話では、大学側は「辞職は個人的」理由と言っているらしい。どうもおかしい。植村氏もなぜ、大学への脅迫に対して堂々と抵抗して見せなかったのか。大学側も、メディア出身の人間を雇う以上、学問の自由と言論の自由を掲げて戦うべきだった。
天下り先確保が狙い?
そもそもメディアは、そしてジャーナリストは、時として批判を受けるものだ。私にだって、某宗教団体などから、どうやったのか実家の電話番号まで調べ上げて嫌がらせの電話がかかってくるほどだ。ジャーナリズムの世界では珍しいことではない。大学側がそのことを知らなかったとしたら、あまりにウブというものだ。
その程度で負けていたら、言論人なんてやっていられない。
メディアでもジャーナリズムでもない理研にさえ、例のSTAP細胞問題で、朝日とは比べものにならない数の批判が押し寄せているのだ。だが、そのことを理由に職員が理研をやめたという話は聞かない。
しかも朝日新聞は、この十月七日の一連の記事に先立つ十月二日、会社を離れた人間への脅迫に対して「大学への脅迫 暴力は、許さない」と題する社説で反論している。
普通なら「弊社を辞めて民間の大学へ行った元記者が攻撃を受けているのは許し難いことではあるが、ペンを持って闘った人間にはこういうことは起こりうる」としたうえで、言論弾圧に立ち向かえばいい。なぜ、やらないのか。
社説はこうも述べている。
〈自由にものを言う。学びたいことを学ぶ。それらを暴力によって押しつぶそうとする行為を、許すわけにはいかない〉
〈学生を「人質」に、気に入らない相手や、自分と異なる考えを持つ者を力ずくで排除しようとする、そんな卑劣な行いを座視するわけにはいかない〉
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