ひろゆきVS勝間和代論争から考える 開業率を上げようとする政策方針の大愚

起業が活発に行われるのは後進国。ではアメリカやそれに追従する日本は一体…

つまり、労働に関する法制度がしっかりと整備され、大企業や中小企業が安定的な雇用を生み出しているような先進国においては、むしろ起業率は低下するんですね。逆に、雇用の安定性が低く、失業率や企業の廃業率が高いような途上国では自然と起業せざるを得ないような人間の数が増え、開業率は高くなるということです。

おそらくですが、おおまかに分けて、新規でビジネスを立ち上げる人間の種類は次の二つに分類されるのではないでしょうか?一つは、社会の中に新たな需要を見つけ、そこのビジネスチャンスを見出すタイプの積極的起業、そしてもう一つは、安定した仕事が得られなかったり、企業の中で仲間と上手くやっていくことが出来ないために、仕方なく自分でビジネスを立ち上げるタイプの消極的起業です。

途上国で特に開業率が高い傾向にあるのは、おそらく後者の消極的起業の数が多いからでしょう。また、現在の日本のようなデフレ不況で、需要が縮小していくような状況にあっては、社会の中に新たな需要を見出すことは非常に困難であるので、そのような状況で無理に開業率を上げようとするなら、後者の消極的起業を増やす方法しかないでしょう。つまり、今ある企業を潰したり、失業者を大量発生させるしかありません。

ここで今にも、
「ちょっと待ってくれ!!経済を活性化するために開業率を上げようとしているのに、どんどん企業を廃業させたり、失業者を増やそうとするなんて、まったく本末転倒ではないか?とても正気とは思えない!!」
という声が聞こえてきそうですが、これはあくまでまともな人の意見であって、残念ながら今政府の内部で経済政策について提言している人たちはまともではない人たちなのですね。政府税調法人課税専門委員会の座長も務める大田弘子氏は、中小向けの法人税の優遇策に関して「収益力が低い企業が存続し、産業の新陳代謝が阻害される面がある」などと言っております。(法人税、中小向け優遇策の見直し検討 政府税調 :日本経済新聞

これどういう意味かというと要は、「収益率の低い企業を潰すことで開業率を上げろ」と言っているワケです。しかし、先の議論で確認したように、廃業率と失業率と開業率が高い国っていうのは、労働法が未整備で、経済も不安定な途上国の特徴なのです。つまり、大田弘子は日本に「発展途上国に戻れ」とアドバイスしているに等しいのです。

今回は、政府の「開業率を上げろ」という政策目標について批判しましたが、他にもいくらでも現在の政府の経済政策や政策目標にはおかしなものがあります。しかし、今の日本経済において重要なことは、デフレ不況、つまり需要不足による不況からの脱却であり、「開業率を上げろ!!」だの「外国人労働者を入れて経済発展!!」だの「第三の矢で悪魔を倒す!!」だの「消費税10%への引き上げ」といったことはおそらく有害であるか、もしくはどう控えめに見ても全くの無益でしかなく、現在の状況で真にやるべきことは1にも2にも金融緩和の継続と財政出動による内需拡大策であるはずです。

安倍首相の支持者が「安倍首相は今現在非常に困難な敵と戦いながら、大変な危険と苦労を強いられているのだ!!」などとロマンチックな幻想に浸るのは個人の勝手ですが、せめて経済学の基本中の基本である、デフレ不況下における最もベーシックな金融政策と財政政策くらいはしっかりと実行したうえで、「安倍首相は大変な困難と闘っているぅううううう」と叫んでほしいなと、まあ今現在の出鱈目な政策方針を見ていると、どうしてもそんなふうに思ってしまいます。

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西部邁

高木克俊

高木克俊会社員

投稿者プロフィール

1987年生。神奈川県出身。家業である流通会社で会社員をしながら、ブログ「超個人的美学2~このブログは「超個人的美学と題するブログ」ではありません」を運営し、政治・経済について、積極的な発信を行っている。

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コメント

    • unk
    • 2014年 8月 08日

    まったく同意。支持します。
    このデフレ下において開業したところでつぶれるだけです。
    企業するには資金が必要です。デフレ状況下ではお金をたくさんもっている人が有利です。
    お金がなく、借りてから開業するにはあきらかに不利な状況と言えます。
    ですので、開業が少ないと嘆いているかたはものの見方をかえてデフレが悪だと思ったほうがよろしい。

    • 2014年 8月 09日

    景気がよくなりゃ勝手に起業率は上がりますよ。それがいいのか悪いのかは置いといて。バブルん時に雨後の竹の子様に湧いて青年実業家がいい例でしょう。
    これは確か三橋さんも言ってたと思いますが、起業率が低いとか嘆く前に、日本独自の長寿企業の多さにもっと誇りを持つべきでしょう。
    起業率が高いということはそれだけ廃業率も高いということになるはずです。ですよね?廃業率の高さは何か誇るべきことなんでしょうか?
    長寿企業が多いということは、それだけ企業内で新陳代謝を繰り返し時代の変化を乗り越えてきたということ。それで全然いいと思いますけどね。
    古い企業は駄目だというなら何千年という歴史を持つ我が国日本はどうなるんですか?解体すべきですか?
    新しいビジネスを始める人の邪魔をするような政策は論外だと思いますが、無理から支援する程のものでもないと思います。マクロ環境を整えてやって、後は民間に任せときゃいいんですよ。確かベンチャーのアイデアと大企業のノウハウや資金力、組織力を繋げるような仕事してる人もいましたよ。

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