漫画思想【06】勇気ある者たち ―『ダイの大冒険』―

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 今回は、名作『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』をご紹介します。原作は三条陸先生、作画は稲田浩司先生で、1989年から1996年までの7年間に渡り『週刊少年ジャンプ』で連載されていました。監修として、堀井雄二先生が参加されています。単行本は全37巻です。
 この作品は脇役にいたるまで人間的魅力にあふれており、私は多大な影響を受けました。

ドラゴンクエストの世界観

 本作は、日本を代表するRPG(ロールプレイングゲーム)『ドラゴンクエストシリーズ』の世界観や設定を基にした作品です。ストーリーはオリジナルであり、ゲーム作品との関連はありません。ドラゴンクエストシリーズは、いわゆる「剣と魔法」モノであり、ヨーロッパ中世的な世界観を基にしたファンタジーです。
 連載期間を考えると、ナンバリングタイトルではDQⅠ~Ⅵ までの影響が見られます。これは、ロト三部作(DQⅠ~Ⅲ)と天空三部作(DQⅣ~Ⅵ)の期間に該当しています。これらのシリーズは、私見ですが「勇者と魔王システム」に準拠しています。

勇者という概念

 「勇者と魔王システム」とは、選ばれた存在である「勇者」が、悪の親玉である「魔王」を倒しに行くというストーリー展開になります。「勇者」という言葉は、古くは『論語』の「子罕第九」に「勇者は懼れず」とあるように、勇気のある者を意味します。
 『ダイの大冒険』の主人公であるダイは勇者であり、勇気という言葉は作中を通して大きなテーマとなっています。登場人物の一人である大魔道士マトリフは、勇者について次のように論じています。

マトリフ「勇者はなんでもできる。だが力だったら戦士のほうが上だ。魔法だって魔法使いにゃかなわねぇ。なんでもできる反面なんにもできないのが勇者っていう人種さ…。だが…、勇者にも一つだけほかの奴には真似できない最強の武器がある…。」
ダイ「えっ!? な…なにそれ!?」
マトリフ「決まってんだろ。勇者の武器は“勇気”だよ!」
ダイ「勇気…!」
マトリフ「おまえにはいかなる敵にも立ち向かっていける勇気さえあればそれでいい。今は基礎でもやってろ。魔法の力が欲しけりゃこいつが勝手に強くなってくれらあ。それが仲間(パーティー)ってもんだぜ…!!」

 ちなみに作中での勇者については、本家勇者のアバン、アバンから勇者を任命された勇者ダイ、リンガイア王国で北の勇者と呼ばれているノヴァ、勇者の名を騙るニセ者でろりん、などが出てきます。ちなみにマトリフは、勇者アバンのかつての仲間です。

ポップ

 主人公はもちろん勇者ダイですが、本作ではダイの仲間である魔法使いポップの存在が際だっています。彼は武器屋の息子であり、特別な血縁的才能のない一般人です。故郷の村を訪れたアバンに憧れて弟子入りしますが、当初は困難からすぐに逃げ出す臆病者でした。
 物語序盤での強敵との戦いで、彼はダイを見捨てて逃げ出してしまいます。そのとき、居合わせたニセ勇者一行の魔法使いから、彼は叱責を受けます。

勇者とは勇気ある者ッ!! そして真の勇気とは打算なきものっ!! 相手の強さによって出したりひっこめたりするのは本当の勇気じゃなぁいっ!!!

 ニセ勇者一行の魔法使いも、昔は正義の魔法使いになりたくて修行していたというのです。しかし、自分より強いモンスターに出会うとふんばれず、仲間を見捨てて逃げることもザラになってしまったのです。ポップを見ていると昔の自分を見ているようで放っておけず、おせっかいをやいたというのです。
 ポップはその言葉を受け、ひとかけらの勇気をふりしぼり、仲間を助けに向かうのです。敵から、ダイのために生命(いのち)をすてる覚悟だったのかと問われたとき、ポップは、そんな格好良いものではないと答えます。できれば自分は死にたくないのだと。ただ、仲間を見捨てて自分だけぬくぬくと生き抜くことは、死ぬより格好悪いと思っただけだと彼は告げるのです。

北の勇者ノヴァ

 北の勇者ノヴァは、物語中盤から登場するキャラクターです。当初は自分の能力を過大評価し、同じく勇者と呼ばれるダイを見下した発言をしていました。誰もが“勇者”を名乗っていることに不快感をあらわし、世界中であがめられる真の勇者は一人で充分だと言い放っています。壮絶に自己中心的な勇者と言われてしまうような人物です。ちなみに、その意見に対しダイは、勇者は何人いても良いという考えを語っています。
 自信過剰なノヴァですが、敵勢力との戦いで敗北したり、ダイとの修行で力量差を思い知ったりして成長していきます。彼はダイと話し合う中でつかんだ勇者についての考えを、次のように述べています。

…ボクは…あの時、はじめて知った!! 真の勇者とは、自らよりもむしろ…!!みんなに勇気を沸きおこさせてくれる者なんだ、と……!!! ボクが、生命(いのち)尽きて倒れても……!! ボクが、つけた、わずかな傷跡に後から攻めていけるだけの勇気を…! この場のみんなに残してあげられれば……!! …ダイほどではなくても…、ボクも勇者の代わりができる…!!!

 そして最後の戦いにおいて、彼は自らの生命を武器にして、自身では勝ち目の無い強敵へと立ち向かって行くのです。その行動は、その場に居た者たちの心を揺さぶることになったのです。

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西部邁

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