最低限、ココだけは押さえておきたい天皇の生前退位と憲法改正

「生前退位は憲法違反だ!!」のウソ

今回は、天皇陛下の生前退位に関する問題について解説したいと思います。とはいっても、先に断っておきますが、私自身は天皇の問題や皇室の在り方に関して特定の在り方や思想を支持する立場ではありません。今回は、あくまで中立的な立場から今回の生前退位の問題について解説したいと思います。

そして、今回の生前退位の問題に関して、どうしても最初に述べておきたいことが、「生前退位と憲法改正にはなんの関係もない」ということです。日本国憲法をちゃんと読んだことのある方であれば、「そんなの当たり前じゃないか」と思うでしょうが、そんな当たり前のことをイチイチ確認しなくてはならないほど、現在の議論は混乱している・・・というか、わざと議論を混乱させるために悪質なミスリードを行っている勢力があるということについて解説します。

愛国メディア産経新聞による悪質な世論のミスリード

左派系のWebメディアであるリテラが、10日にこんなタイトルの記事を掲載しました。
『フジ産経が「天皇の生前退位のために改憲が必要」のデマにもとづく詐欺的世論調査を実施! 安倍政権もグルか』
(URL http://lite-ra.com/2016/08/post-2484.html

「天皇陛下の生前退位『制度改正急ぐべき』70・7% 『必要なら憲法改正してもよい』84・7%」(産経ニュース8日付)
「『生前退位』可能となるよう改憲『よいと思う』8割超 FNN世論調査」(FNNウェブサイト8日付)
 天皇がビデオメッセージで「お気持ち」を表明したその日、こんな驚愕の見出しをぶったのは、産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)だ。内容はいずれも、今月6、7日に産経とFNNが合同で実施した世論調査の結果を伝えるもの。これによれば、“天皇の「生前退位」のために憲法を改正すべき”という世論が8割を超し、圧倒的に改憲を支持しているように見える。
 だが、騙されてはいけない。これは、世論調査におけるトリックであり、フジサンケイグループが仕掛けた露骨なミスリードだ。

このような産経新聞やフジテレビの見出しを読めば、多くの国民が、「天皇の生前退位のために必要ならば改憲すべし」という考えを支持しているように思えるのですが、実は記事中にあるようにこの質問自体が非常に悪質なミスリードとなっています。産経新聞のアンケートでは13問目の設問で、

〈Q13. 現在の皇室制度では、天皇が生前に退位し、天皇の位を皇太子に譲る「生前退位」の規定がありません。生前退位について、あなたは、政府がどのように対応すべきだと思いますか。次の中から、あなたのお考えに近いものを1つ選び、お知らせください。〉

とあり、その回答として「『生前退位』が可能になるように制度改正を急ぐべきだ」が70.7%、「慎重に対応すべきだ」が27.0%、「わからない・言えない」が2.3%だったそうです。ここまでは問題ないのですが、産経新聞のアンケートでは続いて次のような設問も設けられています。

〈Q14. 今後、天皇の「生前退位」が可能となるように、憲法を改正してもよいと思いますか、思いませんか。〉

この設問に対して「思う」が84.7%で圧倒的多数を占めたそうなのですが、現実には生前退位と憲法改正には何の関係もありません。これは、実際に日本国憲法の文章を読んでみれば明らかです。

日本国憲法第1章天皇条項

日本国憲法では第一章が天皇条項となっており、皇位継承に関しては第一章第二条に定められています。

第二条  皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範 の定めるところにより、これを継承する。

現行憲法において皇位継承に関しての記述はこれのみです。ですので、「現在の憲法では生前退位に関する条項が定められていない」というのは一応事実ではありますが、正確性を欠いた記述というべきで、そもそも皇位継承問題は国会で決議した皇室典範の問題であって憲法の問題とは関係ないのですね。

先のリテラによる記事では、産経新聞のミスリードは今回の生前退位に伴う制度改正を機に天皇を再び「国家元首」に定めるための制度改正への道筋をつけることを目的とする保守勢力の世論誘導工作だ、といった趣旨のことを書いていますが、その辺りは私にはよく分かりません。今回の生前退位問題をテコとして憲法改正に繋げたいと考えている保守勢力が存在することも事実ですが、一方で、本当に「生前退位のためには憲法改正が必要だ」と思いこんでいる無知な人々がマスコミの中に大量にいるだけかもしれませんのでなんとも言えないのが現実です。

おかしな世論誘導に惑わされないために正確な最低限度の正確な知識を身に着けましょう

先に書いたように、今回の天皇の生前退位と憲法改正を結びつけるような世論の動きが、天皇を「国家元首」の地位につけることを目的とする一部の保守勢力の陰謀なのか、あるいは単なる無知からこのようなおかしな議論がまかり通っているのかはよく分かりません。ただ一つ言えることはそのどちらだとしても深刻な問題であるということです。

前半に述べたように、今回の生前退位が憲法改正とは全く関係のない問題であるということは日本国憲法の第一章の天皇条項を一度でも読んだことがある方であれば誰でも理解できることです(おおよそ日本語の読める方であれば1~2分もあれば読めるでしょう)。ですので、おそらく今回の天皇の生前退位に伴って「憲法を改正すべきだ!!」と考えている方というのは、一度もまともに日本国憲法の文章を読んだことがないか、あるいは読んだことはあってもその意味を素直に理解することが全く不可能なほどに偏ったイデオロギーに侵されているかのどちらかでしょう。

後者の場合も怖いですが、前者の場合も、「一度たりともまともに憲法を読んだことがない人間が平気で、憲法改正すべきだ!!」などと主張しているということであって、これはこれで怖いことのように感じます。

日本国憲法など全文を読んでもさほど時間のかかることではないので、出来ることなら全ての国民に一度くらいは目を通してもらいたいと思いますが、それが出来ないというなら、せめて偉そうに「憲法は改正すべきだ!!」とか「憲法を守れ!!」とか叫ばずに、「いや、私は日本国憲法の条文を一度も読んだことがないので、改正すべきかしないべきかについてはよく分かりません」というくらいの謙虚さは持っていて欲しいと思いますし、そのように冷静に客観的に自分自身の判断について謙虚な姿勢を持つことがおかしなイデオロギーや世論誘導に惑わされないためにも重要な第一歩となるでしょう。

西部邁

高木克俊

高木克俊会社員

投稿者プロフィール

1987年生。神奈川県出身。家業である流通会社で会社員をしながら、ブログ「超個人的美学2~このブログは「超個人的美学と題するブログ」ではありません」を運営し、政治・経済について、積極的な発信を行っている。

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