第8回 愚かで危険な「外国人=被害者論」

この産經新聞の報道を喜ぶのは、国内の左翼及びリベラル勢力である

例えば日本弁護士協会は、外国人技能実習制度について次のような見解を表明している。

技能実習生が時給300円程度という最低賃金以下の賃金・残業代しか支給されていない事例、会社がプレス機の安全装置の故障を知っていながら修理せず使用させたため技能実習生が挟まれ死亡した事例、技能実習生の女性が受入れ企業の社長から胸を触られる等のセクハラ被害を受けたにもかかわらず本国へ強制的に帰国させられることを恐れて抵抗できない事例等、多くの問題事例が報告されている。

『外国人技能実習制度の早急な廃止を求める意見書』2013年6月20日

また、『ネットと愛国』の著者、安田浩一氏は『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)という本も出しているが、その帯には次のように書かれている。

第一部では、「奴隷労働」とも揶揄されることも多い、「外国人研修・技能実習制度」を使って日本に渡ってきた中国人の過酷な労働状況を概観する。

気をつけなければならないのは、こうした左翼・リベラル勢力の言説は、外国人労働者受入れを推進する財界などにとっても利用価値があるということだ。
外国人労働者をめぐる様々な問題のうち、外国人の待遇や人権にまつわる問題、つまり外国人が「被害者」になる問題ばかりに焦点を当てることによって、治安や安全保障など外国人が加害者になり得るより本質的な問題から国民の注意をそらし、「被害者」問題さえ改善すれば、すべての問題が解決するかのように世論を誘導することができるからだ。
外国人の待遇や人権が担保されれば、左翼・リベラル勢力は外国人の受入れ拡大に反対しなくなるばかりか、諸手をあげて賛成派に転ずるだろう。財界などの推進派は、そこまで織り込んでいるに違いない。
事実、安倍内閣が打ち出した外国人技能実習制度の規制緩和策には、外国人の待遇や人権が侵害されないよう日本側の受入れ企業を監視する体制の強化ばかりが強調され、我々パネリストが最も重視する治安対策や安全保障上の対策が欠如しているからだ。

従って、産経新聞が「トークライブ」を報道するにあたって、総括として取りあげるべきは、筆者の発言(それも主意でない一部)ではなく、治安問題の専門家である坂東忠信氏の発言であるべきだと筆者は考える。
この場に坂東氏の発言を引用すると、氏を巻き込むことになりかねないのでやめておく。坂東氏の提言に関心ある方は、近く徳間書店から刊行予定の坂東氏の最新刊を読むことをお勧めする。
もう一度強調しておくが、これは産経新聞社と筆者個人のあいだの問題で、ほかのパネリストには一切関わりがないことを確認しておく。

結果として中国を利する産經新聞の自己保身

外国人の「被害者」としての側面を強調することには、もっと重大な懸念もある。重要な点なので、これに関する私の見解を『正論』5月号から再度、引用する。

技能実習制度の問題点というと、受入れ企業や監理団体の労基法違反など日本側の「不正行為」ばかりが槍玉に挙げられ、常に外国人が「被害者」として強調される。アメリカ国務省に至っては昨年六月に『人身取引報告書』を公表し、「日本政府は技能実習制度における強制労働の存在を正式に認知しておらず、本制度の悪用から技能実習生を保護するための効果的な管理・措置が不足している」などと指摘しているのだ。
アメリカの威を借りて日本政府に圧力をかけようという中国の対米情報戦が早くも奏効している。日弁連など国内にも同調する動きがある。これでは文字通り第二の「従軍慰安婦」問題にさえなりかねない。

この部分に「中国の情報戦は始まっている」という小見出しをつけたのは『正論』の編集長だ。その張本人が、「関岡氏は『現在でも企業が外国人に安い残業代しか払わなかったり、パワハラがあったりと問題を起こしている。日本人が加害者にもなり得る』と訴えた。」などと産経新聞に書くなどあり得ない。
断じて彼は、そのような、人としての信義を裏切るような男ではない。しかし彼自身が、「私が記事を書いたと考えていただいて結構です」と言い始めた。
言わせているのは誰なのだ?それこそ問題ではないか。直ちに中止すべきだ。

外国人労働者の「被害者」としての側面だけを強調するのは、受入れ推進派や左翼・リベラル勢力を利するばかりか、対中情報戦として決定的な失点である。産経新聞社はそのことがわかっているのだろうか?
安倍内閣の政策によって、これから中国人の建設労働者が大挙して日本に流入してくる。数年後に、オリンピック・パラリンピック関連施設が完工し、いざ帰国させる段になると、中国人労働者は「日本企業に搾取された」「奴隷として不当な扱いを受けた」「パワハラ、セクハラ」を受けたなどとゴネ始め、帰国を拒否して日本に居座る者が出てくるに違いない。世界最大のクレーマー大国である中国が素直に引き下がるとでも思っているとすれば、あまりにもナイーブ過ぎる。
これに国内の左翼・リベラル勢力が飛びつき、中国人を原告団とする訴訟合戦(それは既に各地で起きている)が、いま以上に全国で吹き荒れ、「補償金」や「帰国支援金」という名目で我々日本国民の血税が搾り取られるまで果てしなく続いていくだろう。
そればかりか、アメリカや国連に「日本で外国人への人権侵害が横行している」などと御注進する勢力も現れ、またしても日本が「加害者」に仕立て上げられ、名誉と信用が失墜させられるだろう。
最も重要なのは、それが今度は「外国人の地位向上」と称して世論戦、心理戦、法律戦に利用され、外国人参政権の解禁、永住許可や帰化の条件緩和などが推し進められ、我が国の「移民国家」化、すなわち日本国の解体が、取り返しのつかないまでに進行していくことだ。
「外国人=被害者論」はこれほど危険極まりないものなのだ。それ故あの記事を書いたのは、ひょっとしたら支那の工作員なのではないかとさえ疑いたくなる。(続く)

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西部邁

関岡英之

関岡英之評論家・ノンフィクション作家

投稿者プロフィール

昭和36年6月、東京生まれ。
昭和59年3月、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業。
 同 年4月、 東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行、約14年間勤務後、退職。
平成13年3月、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、著述活動に入る。

主な著書:田母神俊雄氏と共著『日本は「戦後」を脱却できるか 真の自主独立のために』祥伝社 平成26年
     三橋貴明氏と共著『検証・アベノミクスとTPP 安倍政権は「強い日本」を取り戻せるか』廣済堂出版  平成25年
     中野剛志氏編『TPP黒い条約』 集英社新書       平成25年
     『国家の存亡 「平成の開国」が日本を亡ぼす』PHP新書       平成23年
     『中国を拒否できない日本』     ちくま新書       平成23年
     『帝国陸軍見果てぬ「防共回廊」』祥伝社         平成22年
     『奪われる日本』         講談社現代新書     平成18年
     『拒否できない日本』       文春新書        平成16年
     『なんじ自身のために泣け』(第7回「蓮如賞」受賞)河出書房  平成14年

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コメント

    • takayouji
    • 2014年 7月 13日

    比較的にまともだと思っていた産経新聞がこの調子では、報道業界の腐敗ぶりは推して知るべしですね。
    関岡氏の言論活動をこれで潰されるようなことがあれば、それこそ大問題であり、日本言論界にとっても大きな損失になると思います。
    「正論」編集長のように組織内で戦う孤高の存在があることは、心強くもあり、同時にやり切れない思いになります。
    関岡氏やこの編集長のような方々こそ、ジャーナリズムの中心であるべきなのは明らかです。
    日本を取り戻すのはまだ遠いのでしょうか。

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