乗数効果とは何だろうか(初心者向け) 失われた20年の正体(その14)
- 2014/3/31
- 経済
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池上彰氏は乗数効果を誤解している?
上記のような所得増加のメカニズムの存在は、不況脱却、あるいは経済成長達成の手段として、財政支出の拡大を正当化するものです。これに対して、「1990年代以降乗数効果は低下している(それ以前よりも乗数が小さくなっている)」「乗数効果などそもそも無効である」といった議論が存在し、財政支出拡大の足かせになっているのですが、その当否については次回以降論じたいと思います。
今回は、乗数効果がそもそも誤解されている事例として、わかりやすいニュース解説で有名な池上彰氏の著作「池上彰のやさしい経済学 1 しくみがわかる」における乗数効果の説明を、下記の通り紹介したいと思います(原典そのままではなく、多少簡略化してあります)。
【池上彰氏による乗数効果の説明図】
緑で示した金額の合計である200億円が、政府が発注した公共事業による乗数効果であり、事業額100億円でそれを割った数字が乗数(2倍)である、というのが池上氏の説明ですが、これは明らかに誤っています。
まず、ゼネコンから下請け建設会社に支払われた60億円と、下請け建設会社から部品メーカーその他に支払われた30億円は、乗数効果に算入されるべきではありません。これらはあくまで、政府支出100億円によって生み出された所得を関係者の間で分配したものに過ぎず、前節で説明に用いたαX円やα2X円のような、波及的に生じた新たな支出とは異なるものです。
次に、波及的な効果が「部品メーカー等の社員による消費」に限られている点も誤りです。ゼネコンや下請け建設会社の社員による消費も当然ありますし、それによって所得を得た小売店関係者(さらにはその先の取引関係者)による支出も含めて考えるべきなのは、前節で説明した通りです。
池上氏による上記の説明は、同書における財政政策に対する(金融政策と比べた)説明量の少なさとも相まって、乗数効果の恩恵を得ているのがほとんどゼネコン関係者に限られているかのような、誤った印象を与えかねないものです。同書はそれなりに良く売れたという評判ですし、出版元が日本経済新聞出版社である点も、公共事業を悪者扱いするマスコミの論調とだぶって見えてしまいます。
財政政策主導による経済再建を実現するには、こうしたところからも生じているであろう誤解を解いていく必要もあるのかもしれません。そうした問題意識もあり、今回敢えて取り上げてみた次第です。
(参考文献)
ジョン・メイナード・ケインズ「雇用、利子、お金の一般理論」(山形浩生訳、講談社、2012年)
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