アベノミクス第2ステージと「新3本の矢」をあえて後ろ向きに評価してみる

矛盾含みの数値目標は政治的プロパガンダ?

また、仮に、先に述べたように、このGDP600兆円という目標が、政府の成長目標の名目成長率3%実質成長率2%という目標をもとにしているとするなら、日銀の掲げる年2%のインフレ目標ともバッティングします。これらの数値目標の整合性のなさを考えると、この600兆円という目標はあまりしっかりと考えられたものではないのでしょう、実際にこの数値目標を達成するための具体的な方策もなければ、シミュレーターによる試算等もないのでほとんど思い付きで述べた数字か、政治的なプロパガンダに過ぎないと捉えるのが妥当です。経済同友会の小林喜光代表幹事も「あり得ない数値だ。政治的メッセージとしか思えない」「とてもコミットできる数値ではない」と突き放しています。何しろ、安倍政権は過去に1度として名目成長率3%を達成しておらす、去年は実質成長率を5年ぶりのマイナスにまで落としています。このような状況で突然GDP600兆円という目標を突然ぶち上げられても、冷ややかな目で見ざるを得ないのは当然でしょう。

新3本の矢って結局何なの?

最後に、新3本の矢について、一体具体的にどのような内容なのかについて簡単に説明します。というのも、今回のこの新3本の矢の批判の声として非常に多いのは、「具体性がない!!」「抽象的過ぎる!!」というものだからです。なにしろ、第1の矢は「希望を生み出す強い経済」第2の矢は「夢をつむぐ子育て支援」第3の矢は「安心につながる社会保障」という希望と夢と安心の3本の矢ですから・・・こんなわけの分からない方針を打ち出されても「何言ってんだ?」と思うのが当然でしょう、ですので、最後に私なりの新3本の矢の翻訳を行って終わりにします。

第1の矢「希望を生み出す強い経済」
⇒構造改革の推進TPPと農協解体と外資の優遇が主軸
第2の矢「夢をつむぐ子育て支援」
⇒女性の活用、具体的には配偶者控除の適用範囲縮小と企業に女性社員の割当枠を法的に強制
第3の矢「安心につながる社会保障」
⇒社会保障のための消費税増税

こうすると安倍政権が具体的にどういった方向性を目指すのかが見えてくると思います。つまり、「新3本の矢」と、それと同時に打ち出された「1億層活躍社会」とは、企業の活動を邪魔する規制を取り払い、グローバル企業がより国境を超えて自由に活動できる権利を保障し、それまで、配偶者控除の縮小や外国人メイド等の受け入れで女性を家庭や子育てから引き離し企業が活用できる労働力としての人材化(家庭人⇒労働力への転換)を行い、内需を縮小させる消費税増税と企業の利益を拡大する法人税減税を同時に行う。あえて言い換えるなら、家庭や地域社会の解体、人間の労働力化(非人間化、古い言葉を用いるなら疎外)、企業活動の無制限の自由化の3本柱となっているワケです。

もちろん、これは安倍首相個人の資質や責任に帰すことが出来るような性質の政策ではありませんし、戦後ほぼ一貫して推し進められてきた経済活動偏重、企業活動偏重の政策の延長線上にあるものです。要は、戦後レジームの集大成であり完成系であるのですね。TPP参加、集団的自衛権によるアメリカの属国化の完成と合わせて、戦後レジーム脱却を最大の目標としていた安倍政権が戦後レジームの完全な完成を成し遂げようとしていることはこの上ない皮肉な現象ですが、「戦後レジームの脱却」「日本を取り戻す」といった理念に共感し、安倍首相を応援している方々にこそ、現政権がこのどうしよもない矛盾した政策を平気で実行しようとしているという現実を直視してほしいと願います。

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西部邁

高木克俊

高木克俊会社員

投稿者プロフィール

1987年生。神奈川県出身。家業である流通会社で会社員をしながら、ブログ「超個人的美学2~このブログは「超個人的美学と題するブログ」ではありません」を運営し、政治・経済について、積極的な発信を行っている。

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