「集団的自衛権」より「集団安全保障」

国連加盟国の義務とは

 国連は国連憲章にあるとおり、加盟国に対して理不尽な攻撃があった場合、加盟国各国がみんなで立ち上がって勧告をし、従わなければ経済制裁を行い、それでもダメなら武力制裁を行うというシステムになっています。これは間違いなく、集団安全保障の考え方です。
 本来は国連に認められたうえで、国連からの代理権を与えられた国連軍などが制裁を行うのが最も理想的ですが、それが安保理の関係などでできない場合がある。また、会議をしていては間に合わないという場合に個別的・集団的自衛権で対応することが「できる」というのが本来の形なのです。
 つまり、集団安全保障が集団的自衛権に優先するのであり、「この国に手を出したら、国連加盟国がこぞってあなたに制裁を加えますよ」という枠組みを作っておくことが犯罪の抑止になる。これが集団安全保障の基本的な考え方です。
 形としては国連軍に近いのですが、安保理常任理事国の五カ国の関係上、満場一致で国連軍が結成されたことはこれまで一度もありません。しかし集団安全保障に関しては、実は国連憲章第二条第二項にこう書かれています。
〈すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない〉
 この「義務」は果たさなかったとしても罰則はありませんが、英語では「obligations」、つまり社会に対する恩義、義理という意味合いがありますので、国連に加盟してその恩恵を受けている以上、その義務を果たさないことは国家として実に恥ずかしいことだと言えます。
 日本は国民に対しては「武力行使にかかわる国連の制裁行動には参加しない、自衛隊は軍隊ではないので軍隊としての行動はできない」としていますが、国連に対して「日本は加盟しますが義務を果たせません」とは一言も言っていないのです。である以上、一定の義務を果たすべきではないでしょうか。
 いざという時に「立ち上がる」ことをしない国は、自国の危機に助けてもらえないという可能性が出てきます。当然でしょう。「あなたがやられても私は何もしませんが、私がやられたら助けてください」では虫がよすぎる。
 仮に日本が某国から国連憲章違反に当たる攻撃を受けた場合、各国から何もしてもらえないことになりかねません。それこそ、日本は国際社会において「孤児」となってしまいます。
 これが安倍総理の言う「一国平和主義の限界」で、「みんなで国際秩序の維持に尽力しよう」という積極的平和主義のあり方は、実は集団安全保障と定義すべきなのです。

「集団安全保障」とは

 では、政府が今回の議論で強調する「集団的自衛権」との違いは何でしょうか。
 集団的自衛権は、たとえば「私の妻」が殴られた時に、私と妻は一体ですから、私が殴り返す「権利」のことを指します。日米同盟において「危機にともに対処する日本とアメリカを一体と見なす」というのはまさにこのことです。
 一方、集団安全保障はみんなでグループを形成し、その秩序や平穏を乱す者は制裁を受ける。いわば国連軍や多国籍軍、有志連合の考え方で、これらを「集団的自衛権の集まり」と解釈する人もいますが、「集団安全保障」と考えるほうが自然でしょう。
 たとえば、海上自衛隊は米海軍とともに「リムパック」という海上合同演習を行っています。この演習には、実際には韓国海軍や豪州海軍、ときにはフィリピン海軍も参加していますが、日本では「集団的自衛権よりも集団安全保障こそ行ってはいけない」と考えられており、演習が始まると新聞各社がアラを探そうと船で視察に来ます。「憲法違反の集団安全保障をやっているんじゃないか」というわけです。
 そこで海上自衛隊は、「日本はアメリカとしかやっていない。韓国やオーストラリアはそれに合わせて別途演習をしているだけ」というような建前を使ってきました。
 しかし、日本にとってはアメリカしか同盟国がありませんが、アメリカにとっては韓国もオーストラリアも同盟国です。つまりアメリカを中心に考えると日本は同盟国の一つ、つまり「ワンノブゼム」でしかない。
 アメリカをハブとして他国を二国間条約で動かすこのような体制を「Hub and Spokes」体制と言います。欧米にはNATOがありますが、東アジアにはアジア各国が参加する同盟機構がありませんし、日韓間でも情報協定を結ぼうとしましたが関係悪化で成立しなかったため、当面はこの体制でやっていくしかない。
 仮に朝鮮半島有事発生の際には、日本は「韓国を助けに行くアメリカを援護する」という形で間接的に韓国を助けることになるだろうと思いますが、実質にはアメリカを中心とする集団安全保障であるとも言えます。にもかかわらず、「アメリカとの二国関係」が強調される集団的自衛権ばかりにとらわれていては、日本はむしろ身動きがとりづらくなります。
 そもそも、アメリカの軍事力は他に比べて圧倒的ですから、単独で戦える力を持っています。考えてもみてください。アメリカがやられた時、自衛隊が助けなければアメリカが危ない、という事態はほとんどあり得ません。
 アメリカは日本に対して集団的自衛権の行使を求めているのか。私はこれには疑問を抱いています。

米国が求める貢献とは

 アメリカの陸軍で「right of collecti-ve self-defense」(集団的自衛権)という言葉を使う人はほとんどいません。海軍には多少いますが、むしろ日本から逆輸入されたような形でしょう。彼らが言うのは「collective def-ense」(集団防衛)または「cooperative defense」(共同防衛)で、つまり「みんなで守ろう」というものです。
 アメリカと日本だけではなく、その他の国も秩序を維持するグループに巻き込んでいく。韓国もオーストラリアも参加して、将来的には、いまはアメリカと一定距離を保っているインドや、最終的には中国にも「いらっしゃい」という。これによって一国の突出した行動を抑止するのが最大の目的です。
 そのうえで多少のリスクがあるのは仕方がありません。各国も国際秩序の維持のためにリスクを負っている。日本も自衛官にリスクを負ってもらい、国際平和のために尽力すべきです。
 むしろアメリカが求めているのは、このような「秩序維持のためにみんなで立ち上がった」という大義名分です。そのためには、たとえ海軍力の小さい韓国やフィリピンであっても、ともに旗を掲げることが重要になるのです。

→ 次ページ「秩序を皆で維持する仕組み」を読む

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西部邁

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