米ロ歴史情報戦の現状
ソ連時代から「原爆=史上最悪の罪」と教えられてきた人たち。そういう背景があるにしろ、下院議長の「アメリカは法廷で裁かれるべき」発言は過激です。
この盛り上がりはなんなのでしょうか?
もちろん、「クリミア併合」からつづいている米ロ対立が影響を与えていることは間違いありません。しかし、それだけではないのです。実をいうとロシアは、「アメリカによる歴史修正」に憤っている。
歴史修正とはなに?
1.ナチスドイツ戦でもっとも大きな役割を果たしたのはアメリカである。ソ連は、ほとんど何もしなかった。
これが1つ。
2次大戦の犠牲者数については、諸説あります。しかし、ソ連の犠牲者は2,200~2,800万人で、「最大であった」ことを疑う人はあまりいません。
アメリカは今、「犠牲者数は多いけど、勝てたのはアメリカのおかげだよね」とプロパガンダしている。それで、ロシア人は、怒っているのです。
もう1つ。
2.ソ連はナチスドイツから東欧諸国を「解放」したのではない。「解放者」ではなく、「征服者」である。ナチスドイツが追い出されソ連が入ってきたが、それで東欧の暮らしは「さらに悪くなった」。
これは、ソ連から解放された東欧やバルト3国で流行りの見解です。ロシアは、「アメリカがこの見方をひろめている」と考えている。
冷戦時代アメリカ西側陣営の一員だった日本人にも、わかりやすい見方。
しかし、ロシアがこれを認めると、「ソ連(=ロシアが中心)はナチスドイツ以下の存在だ」となってしまう。それで、ロシアは反発しているのです。
アメリカは、日本にそうしたように、ロシアにも「自虐史観」を浸透させようとしている。それでロシアは反発し、「おまえらこそ、ナチス以下だ! 証拠は原爆投下だ!」と主張している。
プーチン大統領の側近でもあるナルイシキン氏は5日、自身が主催した原爆問題についての専門家らによる会議で「広島、長崎への原爆投下はまだ国際法廷で裁かれていない。しかし、人道に対する罪に時効はない」と指摘した。
ナルイシキン氏は昨年来、今からでも米国の原爆投下についての責任を問うべきだという発言を繰り返している。
昨年12月には「来年は(ドイツによる第2次大戦の戦争犯罪を裁いた)ニュルンベルク裁判と広島・長崎への原爆投下が70年を迎える」と、原爆投下とナチスの戦争犯罪を並べて言及。 (同上)
日本がアメリカに「原爆投下を謝罪せよ!」といえば、喜ぶのは中国でしょう。しかし、ロシアがアメリカを非難するのは、「どんどんやってくれ!」と思います。
客観的にみれば、原爆投下は、「人類史上空前絶後の残虐行為」であること、間違いないのですから。
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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