TPPハワイ閣僚会合を振り返る

ハワイ交渉決裂を決定づけた自動車の原産地規則

原産地規則で、その国だけでなく材料の調達がTPP域内であれば合算して一定の割合以上であれば関税引き下げの対象となる「累積」を採用させたことは日本にメリット。しかしTPP域内で原料を調達する割合について、日本はこれまでのFTA(自由貿易協定)で採用してきた40%またはそれ以下を主張、米国は55%を希望。日米間ではこの中間で決着がついたと思われる。フロマンはメキシコ、カナダのNAFTA参加国は納得すると請け負ったが、ハワイ閣僚会合までそれを知らされていなかったメキシコが反発、NAFTA(北米自由貿易協定:米国、メキシコ、カナダ)レベルの62.5%から始め75%レベルへ引き上げていくことを主張し、決裂。
ハワイ閣僚会合で大筋合意できないことが、これにより確実となった。
(※日本ではTPPを推進してきた企業にとってうれしくない情報になるからなのか、事前の調整を怠ったフロマン氏に気を使っているのか、あまり報道されていない。)

乳製品

ニュージーランドはTPP原協定の参加国として、自国の主要産業である乳製品の完全自由化を主張。
乳製品を保護したいのは日本、カナダ。一方自国の乳製品市場を保護しつつ、米国はカナダと日本、カナダは日本の市場開放を望む。
今回の閣僚会合序盤で、米国が豪州に出していた乳製品市場開放のオファーを取り下げた。[注3]理由は明かされていないが、カナダ、日本の市場開放がなければ米国も市場開放しないという米国の酪農団体によるメッセージが反映されていると言われている。カナダは一つの関税割当を提案。輸出国間での取り合いになる。今後どの国が最初に大きく動くのか、各国にらみ合い状態。
カナダは乳製品の供給管理システムを堅持すると主張。10月に行われる総選挙を前に、譲歩できない状況。日本に対して乳製品輸出国はTPP協定発効後はALICが管理すべきではないと主張。
2228_3↑↑日本が乳製品輸出国の受け皿として期待されている

砂糖

米国が豪州にこれまで拒んできた砂糖市場へ年152Kトンの受け入れを提示。豪州は満足していない。米国の砂糖需要は生産量を上回るため豪州からの輸入拡大を受けられると判断したもの。カナダへの砂糖市場の開放を示唆しながらも、乳製品市場開放がなければその話はないだろう。ここでもこれまでメキシコがNAFTAで得ていた恩恵を米国が一方的に他国へ渡すことになるため、メキシコから反発が出ている。
豪州が米国の提案について具体的な数字を出したことで、米国側は反発。日本は砂糖の市場アクセスはほぼ守られることは日本が交渉に正式に参加した時点で明らかになったが、他の国の間では様々な取引の材料として使われていることが確認された。

米-ベトナム間 繊維原産地規則交渉

原材料から全て自国またはTPP域内での調達を主張してきた米国が、技術的理由により、中国から原材料を輸入し、縫製等最終工程のみ自国で行っているベトナムの繊維製品に対し譲歩。しかしタダでは譲歩せず、ルール分野でベトナムの譲歩を迫っている。現時点で米国の要求の内容は不明。

知的財産権(IP)の中のバイオ薬品のデータ保護期間

ガンやエイズなどの治療に必要なバイオ薬品のジェネリック薬を「バイオシミラー」と呼ぶ。バイオ薬品のデータ保護期間について、米国は12年、日本は8年、それ以外の国は5年以下を主張。豪州は健康と環境保護に関し、ISD条項の適応を拒否。
米国の製薬会社は当初15年を主張していたが、オバマ大統領が予算教書で医療費の削減を目指して7年に短縮することを希望しており、米国内で現行法の12年と7年をめぐっての議論がある。仮にTPPが12年でまとまると、FTAを使った国内法改変阻止となるため、TPP反対派は批判の声を高めている。
日本はデータ保護期間に関しては攻める側。データ保護期間のルールが厳しく要求すると、市場も大きく開放する必要があるが、緩ければ市場アクセスも小さくて済むという関係。しかし、日本の交渉戦略上必要とはいえ、命と経済を天秤にかけるような交渉姿勢だとして、日本の参加で巨大すぎる米国に対し、歯止めとなることを期待していた新興国などから、日本に対する失望の声も聞こえるようになった。
パブリック・シチズンのピーター・メバードック氏は、日本が8年を主張するのは薬害を防ぐためであり、新薬製薬会社の利益を確保する為ではないという主張は理解するが、それを新興国にも強要する必要はないので、7~8年を主張するアメリカを支持することを止めるだけでも新興国の助けになると説明してくれた。

注釈:
注1:TPP「知財が最終課題」 政府対策本部、自民会合で説明(日経新聞)2015年8月4日
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO90114900U5A800C1EAF000/
注2:TPP 閣僚会合の決裂を受けて(詳細版)(JC総研)2015年8月
http://www.jc-so-ken.or.jp/pdf/agri/tpp/27.pdf
注3:Trans-Pacific Partnership deal in doubt (The Sydney Morning Herald) 2015年8月1日
http://www.smh.com.au/federal-politics/political-news/transpacific-partnership-deal-in-doubt-20150731-gioyho.html

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西部邁

まつだよしこ

まつだよしこ翻訳家

投稿者プロフィール

「Facebook公開グループTPPって何?」の管理人グループの一員としてTPPに関する情報を収集し、TPPに関する正しい情報を発信する活動をしています。米国上下両院全議員宛に自民党決議文および農水委員会決議文を送るなど、海外への情報発信にも力を入れています。

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