パッチワーク経済学-リフレ派の幻想-(後編)
- 2015/4/2
- 経済
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今、政策転換を!
リフレ政策を最も望んでいるのは、証券会社を中心とする機関投資家、投機業者、そして株価の上昇を権力維持の目安と考えている政治家でしょう。彼等の共通項は短期的な利益に執着していることです。民間業者はいざ知らず、長期的展望の必要な政治家が株価に一喜一憂している姿は、どう見ても頂けません。穿った見方をすれば、リフレ政策は高株価の維持と更なる上昇のために利用されているとしか思われません。
先般の追加緩和策を日銀は、量的および質的緩和策と呼びました。先述した如く、質的緩和とは日銀がETFのようなリスク資産を購入することです。これ以上の長期国債の買い切り増額が無理な場合、次回の追加緩和策ではリスク資産の購入額が増えることが予想されます。現段階でも日銀とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による官製相場と揶揄されている株価水準です。そこへ質的緩和の増額が加われば、どうなるでしょうか。またバブルを日銀が膨らませることになります。
思い起こせば、1980年代後半、五度の公定歩合の引き下げを実施しバブルを生んだと評される澄田智第25代日銀総裁。その後、急激な引き締め策に転じ最悪の形でバブルを潰し、日本経済の長期的低迷の主犯格と思われる三重野康第26代日銀総裁。「日銀がバブルをつくり、そしてバブルを潰す」という愚を再び繰り返そうとしているように筆者には感じられます。そうならないためにも、今こそ政策転換が必要なのです。
日銀が買い、政府が売る
リフレ政策は債券市場から長期国債を買い切る政策です。しかし、2%のインフレ目標が達成されないからと言って、無制限に購入量を増やそうとするなら経済に歪をもたらします。現に生損保は超低金利によって運用に支障をきたしております。また量的緩和の義務化は、投機業者に日銀の手の内を読まれることを意味しますから、結果的にバブル発生につながる恐れがあります。そうしたリフレ政策の欠陥を補い、量的緩和策の有する国債問題の解決に資するという利点を維持していくためには、如何なる施策が必要でしょうか。
それは政府が積極的に財政政策を実行することです。財政出動の財源は建設国債です。政府が債券市場へ建設国債を売ることによってバランスを取るのです。日銀は買い、政府が売る。このポリシーミックスによって金融のバランスを取ると同時に、実体経済を浮揚させることができるのです。内憂外患を抱える災害大国日本には、安全、安心、安定に対する国民の巨大な需要が存在しております。国土強靭化のための需要です。そうした需要を政府が責任をもって満たしていくことは、将来の不確実性の除去につながり民間経済の活動を活発化させるのです。
さらに為政者は日銀に対してインフレ目標達成までの無制限な量的緩和を止めさせることです。リフレ派の論理が誤っていることは、ここまで拙稿を読み進められた方にはお分かりいただけたかと思います。余程の僥倖でもない限り、2%のインフレ達成は不可能です。しかし、量的緩和策として長期国債を年間90兆、100兆と買うことは経済に悪影響を及ぼすこと必定です。なんとか日銀に止めさせなければなりません。教科書経済学にこだわる頑固一徹なリフレ派経済学者の幻想によって、日本経済は危険な状況に追いやられるのです。実体経済は浮揚せず、実質賃金は上がらず、されどバブルの萌芽が現出しています。
そうした政策転換ができるのは為政者しかいないでしょう。しかし、その可能性が低いことが現状における日本経済の悩みの本源なのです。単年度の財政均衡主義、貨幣数量説に基づくインフレ観、経済効率を判断基準とする民尊官卑思想といった誤解に基づく固定観念からの脱却が為政者を含め社会全体に望まれるところです。「この世で一番むずかしいのは、新しい考えを受け入れることではなく、古い考えを忘れることだ。現在の為政者や知識人は、すべて過去の知識人や過去の思考の奴隷なのだ」というケインズの言葉は正に日本の現状を物語っているのではないでしょうか。
コメント
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リフレ派だけではなく、財政政策好きの人達が見ているものも幻想だと思いますよ。
大規模な財政政策をずっとやれ、とでも言うのでない限り、公共事業などをしていた人達には再就職先が必要になります。
そしてその再就職先は、緩やかなインフレが続く様な社会でなくては存続が難しい。
では、大胆な財政政策をきっかけにして緩やかなインフレが続く社会になる保障は?
例えば、藤井聡さんによると、政府系の建設投資額と名目GDPには相関性があるそうです。
藤井さんが用意したグラフを見ると、確かに政府が投資を減らすとGDPも減っていた。
つまりは、財政政策好きの人が紹介するグラフにおいても政府がお金を使い、
それが呼び水となって「緩やかなインフレが続く様な社会になる」という事は起こっていないのです。
それなのに「金融政策では駄目だから財政政策を」という様な話がある。
やがて効果が切れそうだという点では同じだろうに。
kobuna さん
先進国の政府支出伸び率と名目GDP伸び率には強い正の相関があります。
http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20150627
一方、そこでは紹介しませんでしたが、リフレ政策を実行している日本におけるMBと名目GDPそれぞれの伸び率の間には相関性はほぼありません。 決定係数<0.1
これらから言えることは、名目GDPを伸ばすには中期的に、かなりの規模での財政政策を継続すべきということだと思います。
私はリフレ政策は経済に一定の効果をもつとは思いますが、それは主に為替を通じたものであり、現在のドル円120円台の水準を超えて、例えば360円を目指しても意味は無いし、上述の通り、名目GDPに効果はないのですから、それだけでデフレ脱却はほぼ無理(理由は青木先生が指摘されています)と思っています。
アベノミクスも、当初の第一の矢の他に第二の矢財政政策も積極的だったころにはデフレ脱却も射程に入ったか、と思ったものでしたが。
青木先生
>現実の企業経営者は、フィッシャーの方程式に基づいて算出される金融市場で決まる実質金利の動向によって実物投資を決定しているのではありません。筆者は長年経済研究に携わってきましたが、そうした経営者を見たことはありません
私もご指摘の通りだと思います。
経営者たちは勿論金利も考慮には入れますが、投資の適不適を判断するために事業価値をNPVで分析するなどの場合、NPVの値に影響をおよぼす多数の因子のうち、想定される因子の予想値の幅が最終的にNPVの振れ幅に与える影響が大きい因子数個に絞り、不確定要素を減らす努力をします。
この、投資判断に影響をおよぼす因子として金利が候補にあがることは金融関係企業は知らず、一般企業ではほぼないのではないでしょうか。 実質金利がゼロからマイナス1%に下がったところで、事業価値に与える影響は軽微です。
それよりも、結果としてデフレ脱却したとすると売上増等々を介してNPVは大きく上昇し、投資に適する事業数は大きく増えるでしょう。
先に実質金利低下があって、デフレ脱却というルートは現実の企業の投資を考えると非現実的なルートだと思います。