「ネトウヨ」と「行動する保守」

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『ネットと愛国』の欠陥

「行動する保守」への批判を「保守派」全体への批判の橋頭堡にする悪質な物言いの最たるものが、ジャーナリストの安田浩一氏が著した『ネットと愛国』(講談社)であろう。この本は、ノンフィクションとしては大変良くできており、筆力と構成力は瞠目に値するものだと思っているが、致命的な欠陥がある。

 それは、この本に登場する「在特会」会員を「ネット保守全体を代表する存在」として描いていることだ。そして最終的に、在特会をパソコン画面の向こう側で応援する市井の日本人たちに存在する排外主義的な感情に対する危惧と警告で結ばれている。

 安田氏は在特会をパソコン画面で応援する人々として「ネット保守」、あるいはその背後にある「保守派」のことを指しているのだが、実際にはすでに述べたとおり、「保守」は「在特会」に代表される「行動する保守」の過激な言動を嫌悪しているし、一方で「行動する保守」の側は、「保守派」の穏健で理性的な物言いを「綺麗事保守」と呪詛して嫌悪している。

 本来、この両者は関係がないどころか対立すら内在する構図にもかかわらず、安田氏は「行動する保守」を「保守派全体への攻撃」材料として、意図的に選んでいる。

「保守派」を攻撃したいという欲望はあるのだが、かと言って慰安婦問題における朝日新聞の虚報事件に代表されるように、こと歴史的な観点での保守派の言い分は圧倒的に正しく、また根拠に基づくものである。

 この方向からの「保守派攻撃」は左派にとって勝ち目がないために、万人が嫌悪する差別的言動を行う「行動する保守」への憎悪を踏み台として、保守派全体への攻撃と毀損に援用させている。こういう戦略的な保守派潰しのために、彼らは「在特会」を利用しているとも言える。

 左派にとっては「保守派」という本丸を攻撃するための、最も攻略が簡単で、自らの攻撃の正当性をも担保することができる対象だと映っているのである。

 だから、彼らが執拗に「在特会」を攻撃する先には必ず安倍首相と自民党、保守派言論人の存在がある。彼らの最終的目的は、「在特会」を踏み台とした保守派全体への攻撃だからだ。

 本来であれば、安田氏の書は『ネットと愛国』ではなく『在特会(行動する保守)と愛国』に過ぎないはずなのだが、保守派全体を攻撃して毀損するために、「行動する保守」そのものがあたかもネット空間の全てを代表している、という認識で貫かれている。

「保守」「ネット保守」「行動する保守」の三者はそれぞれ別個の存在であるにもかかわらず、全てを一括りにして論じており、理論の雑駁さと保守を攻撃したいという意図が、その文体の随所から感じられるのだ。

嫌韓・嫌中本を読む人たち

 つい最近、毎日新聞が「嫌韓・嫌中本や記事」を読んだことのある読者の四〇%以上が六十歳以上の高齢者である、とする調査を発表した。さらにそれらの人々は、読んでいない層よりも読書習慣が際立って高いことが明らかになった。

 この調査結果は、概ね間違っていないと思う。なぜなら、この調査で指し示す「嫌韓・嫌中本や記事を読んだことのある読者」というのは、「保守」と「ネット保守」の両者を網羅しているからである。「ネット保守」の平均年齢は四十歳ぐらいの中年、「保守」は伝統的な自民党への支持に依拠しているから、概ね中・高年に読者が固まっているのは不思議ではない。

 しかしこの調査は、暗に「行動する保守」の人々による過激な差別的言動を繰り広げる行為が、明らかに「嫌韓・嫌中本や記事」の影響を受けている、と示したいのだ。

 これは大きな間違いである。これまで書いてきたように、「嫌韓・嫌中本や記事」を書いている多くの著者や記者は、「保守派」に該当する言論人や知識人である。もちろん、そのなかには「朝鮮人を殺せ」「在日を叩き出せ」などという差別的な文句など、ただの一言も入っていない。そんな文句があれば編集や校正の段階ですぐに削除されるだろうし、多分、ほぼ確実にもともとの原稿にもそんな文章はない。

「保守(派)」とは、「伝統や文化の連続性を重んじる人々」だ。そういった穏健で温和で平和的な性質の人々は、そもそも「死ね、出て行け」などという過激な感性から最も遠い。

 そもそも一般に「嫌韓・嫌中本」と言われる書籍や記事のほとんどが「知韓本」であり、「知中本」である。つまり、「頓狂な反日姿勢を繰り返す韓国政府の内実は一体どうなっているのだろう」「軍拡を続ける中国の独裁体制はどうなっていて、この先、どこに向かうのだろう」という興味をもとに、韓国や中国を分析する内容のものがほとんどである。

「保守派」の持つ穏健な知的好奇心に向けられて書かれたものがほとんどで、彼の国の内情を知らせるためのものであり、彼の国を呪詛する差別的言説とは本来、関係がない。

 繰り返すように、「行動する保守」の人々は「保守派」を侮り、その言説が穏健に過ぎるとさえ感じているので、そもそも「保守派」の言論人や知識人の書いた書籍や雑誌の記事を読んでいないのではないか。なぜなら「保守派」の書く書籍や記事のなかには、彼らが最も期待する「在日を叩き出せ」などという過激な物言いなど一切、存在していないからである。

→ 次ページ「狭義のネット右翼」を読む

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西部邁

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コメント

    • 白松
    • 2015年 1月 11日

    古谷さんの定義だと、Willは非フジ産経グループ、自民党的出自なので、スタッフも読者もネトウヨということなのでしょう。過激派ネトウヨ(在特会)と同じ扱いですか…(笑)

    ポリタス「ネット右翼」はなぜ沖縄の米軍を擁護するのか?
    http://t.co/i4MJjprMLs

    • I am not korean
    • 2015年 4月 21日

    ネトウヨ、ネット右翼、
    邪魔に思っている達がネガキャンに必死ですな。
    何故かというのは、まぁ普通の間隔の人が考えればわかることですけどね。

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