今、台湾どうなってるの?台湾事情通がすっきり解説

台湾国内の無益な対立を終わらせる救世主登場か?

 「私が在野大連盟を主張するのは、台湾社会が藍・緑の対立による消耗からの脱却に期待するからだ。」

 柯Pは淡々とそう語った。柯Pとは、今月(11月)29日に行われる台北市長選挙に無所属で立候補した柯文哲の愛称だ。「P」はプロフェッサー。柯Pは著名な外科医師であり、台湾大学医学院の教授でもある。
 冒頭の発言はこの7日に行われた、対立候補の連勝文とのテレビ討論会でのものだ。連勝文は、与党・中国国民党(以下、国民党)の擁立候補であり、国民党栄誉主席の連戦の長男である。

 台北市長選挙には、ほかにも候補者がいるのだが、実質的には柯と連との二強対決なので、テレビ討論会に呼ばれた候補者は、この2人だけだった。
 さて、医師の柯Pが台北市長選への立候補を決意したのは、台湾社会にただならぬ病を感じ、そして患部は台北にありと診てとったからだ。

台湾社会の病状は日本にそっくり

 台湾では、ここ十数年にわたって中国との経済的な結びつきを強めながらも、その実、経済に伸びがみられない。庶民の銀行口座には金が貯まらず、ことに若者の財布は寂しい。就職先も一般には見つけにくく、運よく職に就いても給与は低い。というのに、台北市などでは不動産が高騰。3億元(約11億円)を超えるマンションも珍しくない。もちろん1棟ではなく、1戸の価格だ。

 一方、政治方面では10年近くも、国民党に代表される藍派と、民進党に代表される緑派との対立が続いている。藍と緑とはそれぞれの党旗の色に由来し、藍緑の対立は、政策の対立というより、中国人アイデンティティーと台湾人アイデンティティーとの対立、あるいは中国に近づくのか、距離を置くのかの違いといったほうがよく、理想の対立、または感情の違いだから妥協がない。その行きつくところの見えない対立に、庶民はしだいに心理的に遠ざかり、その対立の両極の間で揺れている。

 そこへ、昨年は食品偽装などの問題が続出して社会不安が増大。今年は、違法な原料による食用油が出回っていることが発覚した。さらに、深刻な少子化年金問題移民の増加などで、先行きにも明るさは見えない。

 2008年に誕生した国民党の馬英九政権は、2000年からの民進党政権下での中国との関係の停滞が経済不振の原因であると、中国へすり寄る政策を展開。が、経済は好転しなかった。反対に中国に呑み込まれるのではないかと懸念されるようになった。

 今年3月には中台間で締結された「両岸サービス貿易協定」が国民党の手で強硬に委員会を通過し、批准のために立法院(国会)へと送られたところで、学生たちが立法院の議場を占拠。同協定は検討のために批准は先送りになった。同協定が施行されれば、台湾の通信や運輸、出版、金融などの分野に中国の企業が参入することが可能になる。台湾の社会システムの首根っこを中国に抑えられる可能性があったのだ。

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西部邁

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