『夢幻典』[参式] 沈黙論

「夢幻典」特集ページ

 沈黙。
 沈黙を沈黙と語るなり。
 沈黙を沈黙と語らぬなり。
 語らぬとして、語るなり。
 故に、それによって、語らぬことを示すなり。

 有と無と思想が語られた。
 無において、零から一が生まれた。
 だから、一であった有から、複数の有が生まれた。
 その捏造の痕跡は消され、生活世界が展開される。
 だからそれは、祝福されるべき事態。

 ゆえに、そこに沈黙は有り。
 ゆえに、そこに沈黙は無し。
 ゆえに、そこに沈黙は有りとも無しとも、有り。
 ゆえに、そこに沈黙は有りとも無しとも、無し。

 有において、在ること。
 生活世界において、分けて分かること。
 一を二へと。
 それは素晴らしきこと。
 だた、その次元をずらし意識を向ける法あり。
 それも、素晴らしきこと。

 次元をずらす。
 二を前の一へ。
 二を先の多へ。
 二を新たな一へ。
 ゆえに、新たな二へと。
 新たな二を、さらに新たな一へと。

 二項対立。
 破壊と創造。
 重層化。
 循環構造。
 連環理。

 問題を問題で無いことへと。
 問題を新たな問題へと。
 新たな問題を、問題で無いことへと。
 問題で無いことを、新たな問題へと。
 重層構造の循環構造。

 生じること、滅すること。
 生じることは、滅すること。
 その前へ置き、生じること無き、滅すること無き。
 その後へ置き、生じること無き、滅すること無き。

 生死において、生も死も無し。
 生死が起こりえるところにおいて、生死の問題無し。
 その前へ置き、その後へ置き、まさにそこに置く。
 そこにおいて、生死の問題無し。
 ゆえに、生死の問題有り。
 繰り返しが、繰り返される。

 幸福と不幸。あるいは真実と虚偽、善と悪、美と醜。
 その認識の以前へ戻り、あるいは以後へと進む。
 すなわち、その認識の外に留まること。
 幸福無し、不幸もまた無し。
 真実も虚偽も無し、善悪も無し、美醜も無し。
 無しにおいて有りが、有りにおいて無しが。

 そして、智恵と無知において。
 この対立の進展によって、因果の逆転が起こる。
 ここに智恵の優位性が示される。
 智恵の優位性を否定することによって、
 その優位性が示される。

 ここに言葉の問題が立ち上がる。
 作為と無作為の二が選ばれる。
 その進展において、無作為が選ばれる。
 正確には、無作為への変換が行われる。
 言葉の成立の後に、言葉の滅却へと至るなり。
 沈黙を宣告する沈黙。

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西部邁

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